- 「自己破産をすると退職金も差し押さえられる?」
- 「退職する予定がなくても退職金が没収されるって本当?」
自己破産手続きを行うと退職金も差し押さえの対象になります。まだ退職予定がないという方でも一部が差し押さえられるため、破産申立の際には注意が必要です。
ただ退職金の種類によっては差し押さえの対象ではなかったり、自己破産の時期によって没収される退職金の割合が違ったりします。今回は差し押さえられる退職金の種類や割合について詳しく解説をします。また退職金を算出する際に会社に自己破産がバレないようにする方法についても触れています。
自己破産で差し押さえられる退職金の範囲
自己破産は借金の返済ができないことを裁判所に申し立て、借金を免責してもらう手続きのことを指します。免責を受ける代わりに財産の大半が回収され、換金されたのち債権者に配当されます。
退職金は原則として自己破産の際の差し押さえの対象となります。既に退職金を受け取っている場合、退職金は現金や預金として扱われるためそれに準じた金額を差し押さえられます。まだ退職金を受け取っていない場合でも、金額が決定している場合は一部が差し押さえの対象となる場合があります。
自己破産で差し押さえを受ける財産とは
まずは退職金に限らず、自己破産で差し押さえの対象となる財産について確認をしましょう。原則として現金に換算し20万円以上の価値がある場合は差し押さえの対象となります。現金は99万円までを保持できます。
- 合計して残高20万円以上の預貯金
- 99万円を超える現金
- 解約返戻金が20万円以上の保険
- 処分見込み額が20万円以上の自動車
- 不動産・住宅
- 株や投資信託
- 給与(手取り額)の4分の1
売却することで換金ができる自動車や不動産だけでなく、解約により解約返戻金が得られる保険も財産としてみなされる点に着目してください。保険の解約返戻金のように金額が確定しており、支払を求めることができるものについては自己破産において財産とみなされ、差し押さえの対象となります。
この法則に則り、まだ支払を受けていない退職金についても金額が既に決定している場合は差し押さえの対象になります。逆に考えると、中小企業のように退職金の規定がない場合は「退職金見込み額が決まっていない」ため差し押さえの対象外となります。
差し押さえの対象外となる財産
なお自己破産において差し押さえの対象外となる財産は以下の通り。
- 99万円以下の現金
- 破産開始決定後に取得した財産
- 20万円以下の預貯金
- 価値が20万円以下の車・財産等
- 生活に必要な家財道具
- 仕事で使用する物
- 差押禁止財産
- 破産管財人が放棄した財産
差し押さえの対象外になる財産は自由財産と呼ばれ、交渉によって拡張することも可能です。また破産管財人に財産放棄をしてもらうことで財産を手元に残すこともできます。具体的な方法については後の項目で解説を行います。
自己破産において差し押さえの対象となる財産・残せる財産については以下の記事で詳しくまとめています。
自己破産すると財産はどうなる?処分される・されない財産と財産隠しについて
退職金の扱いは自己破産のタイミングによる
退職金が差し押さえになる範囲については、自己破産の時期により大きく変動します。退職のタイミングと差し押さえになる退職金の割合の関係について詳しく解説をしていきます。
自己破産のタイミング | 差し押さえられる金額 |
---|---|
退職金を受け取っている | 現金の場合99万円を超える部分 預金の場合20万円を超える部分 |
退職の予定がある 退職したが退職金を受け取る前 |
退職金の4分の1 |
退職予定なし | 支給見込額の8分の1 |
退職金を受け取る予定がある場合
退職することが決定している、もしくは既に退職をしていてこれから退職金を受け取る予定の場合は退職金の4分の1の金額が差し押さえられます。退職金は破産手続きにおいて給与と同じ性質を持つものとして扱われます。支払前で金額が決定している給与が4分の1差し押さえられる事と同様、金額が決定している退職金については4分の1が差し押さえの対象になります。
退職金を受け取る予定がない場合
退職金を受け取る予定がない場合、つまり在職中でしばらく退職の予定がない場合は自己破産手続き開始時点での退職金支給見込額の8分の1が差し押さえ対象となります。
退職の予定がない場合、将来的に退職金をもらえることが決まっていたとしても受け取る時期は先になるため、差し押さえられる割合は低めに設定されています。
すでに退職金を受け取っている場合
自己破産手続きの時点で既に退職金を受け取っている場合、退職金は財産における「現金」もしくは「預金」として扱われることになります。それぞれの形態に応じた金額が差し押さえられるため、退職金の大半が差し押さえの対象となる可能性が高いです。つまり預金として退職金を保持していた場合は20万円を超える金額、現金として保持した場合は99万円を超える金額が差し押さえられます。
自己破産を検討している方の中には、勤務先に破産したことがバレないよう退職後に申し立てをしようと思っている方がいるはずです。しかし退職金を受け取った後に自己破産をすると退職金の大半を失うことになります。
また身内から借金をしている方の場合、自己破産手続きの前に退職金で借金を返済しようと考える方もいるかもしれません。もしくは連帯保証人がいる借金を先に完済しようという方もいるでしょう。
しかし特定の借金だけを優先的に返済する行為は「偏頗弁済(へんぱべんさい)」と呼ばれ免責不許可事由に該当する恐れがあります。いずれにせよ自己破産を検討している方は退職金を受け取るタイミングを慎重に考えるようにしましょう。
会社に退職金制度がない場合
会社に退職金制度が規定されていない場合、差し押さえの対象となる退職金は存在しないものとされます。そのため退職予定の有無に関係なく相当額が回収されることはありません。
しかしその場合は退職金制度がないという事実を裁判所に証明しなくてはいけない点に注意してください。証明する方法として挙げられる手段は以下の2つ。
- 「退職金制度がない」ことを証明する書面を勤務先に作成してもらう
- 勤務先の退職金の規定、就労規則を提示する
勤務先に退職金関連の書類作成を依頼する場合、状況によっては自己破産をすることを勘付かれる可能性がありますので注意してください。勤務先にバレないよう退職金関連の書類を揃える方法はこの後の項目で詳しく解説をしています。
回収される退職金の相当額が払えない場合
先述の通り、退職の予定がない場合でも勤務先に退職金の規定がある場合、支給予定額の8分の1にあたる金額が差し押さえられることになります。退職金の金額は会社により様々ですが、厚生労働省の中央労働委員会が実施した調査によると平均退職金額の平均はおよそ1191万。
(参考元: 中央労働委員会|令和3年賃金事情等総合調査)
仮に退職金が1200万円だった場合、その8分の1に該当する金額は約150万円となり、自己破産の際はこの金額を裁判所に納めることになります。
退職金相当額を一括で納めるのが難しい場合、分割で支払うこともできます。裁判所によって対処が異なる場合があるため、詳しくは自己破産手続きに詳しい弁護士に確認をしましょう。
差し押さえの対象外となる退職金
なお全ての退職金が回収されるというわけではなく、差し押さえの対象外となる退職金も一部ではありますが存在します。会社が加入している共済から支給される「中小企業退職金共済」「小規模企業共済」、福祉施設で働く職員の退職手当制度である「社会福祉施設職員等退職手当共済」は差し押さえが禁止されています。
この事について法律では以下のように明文化されています。
第二十条 退職金等の支給を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。ただし、被共済者の退職金等の支給を受ける権利については、国税滞納処分により差し押える場合は、この限りでない。
出典元:e-GOV法令検索|中小企業退職金共済法
第十四条 退職手当金の支給を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。ただし、国税滞納処分により差し押える場合は、この限りでない。
出典元:e-GOV法令検索|社会福祉施設職員等退職手当共済法
また企業が退職金ではなく「確定給付企業年金(DB)」「確定拠出年金(DC)」「厚生年金基金」の制度を導入していることがあります。これらも以下の法律により差し押さえが禁止されているため絶対に回収されません。
三十四条 受給権は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。ただし、老齢給付金、脱退一時金及び遺族給付金を受ける権利を国税滞納処分により差し押さえる場合は、この限りでない。
出典元:e-GOV法令検索|確定給付企業年金法
第三十二条 給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。ただし、老齢給付金及び死亡一時金を受ける権利を国税滞納処分により差し押さえる場合は、この限りでない。
出典元:e-GOV法令検索|確定拠出年金法
自己破産したことを会社にバレないようにするには
会社に自己破産がバレるのを恐れ退職後に破産申し立てを行おうとすると、退職金の大半を手放さなくてはいけません。
しかし在職中に自己破産手続きを行おうとした場合は退職金に関する書類を用意しなくてはいけないため、会社にバレそうで不安だという方も多いはずです。そこでこのような場合にどのような対応をすればよいのかを解説します。
破産管財人に退職金を放棄してもらう
退職金の一部が差し押さえ対象となる場合、その金額を裁判所に納めなくてはいけない旨は先に解説した通りです。
しかし実際のところ、自己破産に追い込まれる状況にある方がその金額を用意することは現実的ではありません。そのため破産管財人が勤務先に連絡して退職金の一部の支払を請求することもあります。その場合は自己破産をしたことが会社に確実にバレることになります。
それを防ぐためには破産管財人と連絡を取り、差し押さえに該当する金額を自分で納めることを伝える、すなわち破産管財人に退職金を放棄してもらう必要があります。先に解説をしている通り、裁判所によっては分割での支払いに対応してもらえます。
自由財産拡張を適用する
退職金の差し押さえを防ぐ方法の一つとして「自由財産の拡張」と呼ばれる方法があります。自由財産とは自己破産において手元に残せる財産のこと。自由財産の範囲についてはあらかじめ定められていますが、実は裁判所と交渉することによって手元に残す財産を拡大してもらうことができます。
例えば東京地方裁判所の場合、金額に換算し20万円までの財産については自由財産として手元に残せますが、他の財産と併せ99万円を超えない範囲までであれば自由財産を拡張してもらうことが可能です。差し押さえの対象となる退職金がその範囲に収まっていれば自由財産に退職金を含めるこことができ、差し押さえの対象から除外できるため、勤務先に破産の事実を知られることはありません。
ただ裁判所によって運用が異なる上、個々のケースや事情によって自由財産の拡張の範囲は異なります。どの程度拡張ができるのかについては自己破産を依頼する弁護士に相談をして確認をするようにしてください。
退職金見込額証明書の取得に注意
自己破産手続きを行う際には実際に退職金が支給されるかどうか、退職金はどれくらいなのかを証明しなくてはいけません。そのための手段として以下の2通りの手段を挙げることができます。
- 勤務先に退職金計算書や退職金見込額証明書を作成してもらう
- 就業規則の退職金規定を参照する
勤務先の経理部署もしくは事務担当などに退職金見込額証明書を作成してもらうと、差し押さえの対象となる金額を正確に計算ができるため、スムーズに破産手続きを進められます。
ただ実際のところ、退職金の見込み額を証明する書類が必要となる機会は少ないものです。そのため勤務先に「退職金計算書」や「退金見込額証明書」の作成を依頼した場合は自己破産手続きをするのではないかと疑われる恐れがあります。
他の理由を伝える
「退職金計算書」や「退金見込額証明書」を発行してもらうことになった場合、理由や提出先を聞かれることが大半でしょう。そこで「裁判所に提出する」等と伝えると、自己破産をすることがバレてしまう恐れがあります。
退職金に関する証明書を取得する場合は自己破産以外の理由を用いるようにしましょう。実際に利用できる理由として以下のようなものが挙げられます。
- 住宅ローンや教育ローンを組むために必要である
- (奨学金などの)保証人になるために提出しなくてはいけない
- 退職金の資金運用を考えている
退職金は自分で計算ができる
退職金の金額を証明する書類の依頼ができない場合は就業規則に記載されている退職金の規定を確認してみてください。退職金規定には退職金の算出方法が記載されているため、それを元に自分で退職見込み額を計算することができます。
ただ会社によっては就業規則を外に持ち出せないことがあり、実際に自分で計算をしようとしても複雑で難しいケースもあります。就業規則を元に退職金を算出する場合、専門家である弁護士に相談をしてください。
自己破産に関する心配事は弁護士に相談を
ここまで解説をしてきた通り、退職金がある場合の自己破産手続きは大変手間がかかります。破産する時期によって差し押さえの対象となる金額が大きく変動する上、状況によっては勤務先に自己破産をすることを気づかれてしまうリスクもあります。
そのため自己破産をする場合は弁護士に相談・依頼をすることを強くお勧めします。弁護士に自己破産手続きを依頼することにより、以下のようなメリットがあります。
- 退職金を計算してもらえる
- 借金の督促や返済を一時的にストップできる
- より多くの財産を手元に残せる
退職金を計算してもらえる
差し押さえされる退職金を計算する際、勤務先に退職金見込額証明書を発行してもらうことで破産手続きをスムーズに進めることができます。しかし実際のところ自己破産することを勘づかれそうで怖いという方が多いはずです。
その場合就労規則を元に退職金を計算することになりますが、専門知識がない方が自力で正確な退職金を算出することは困難な場合があります。しかし弁護士に自己破産手続きを依頼することにより就労規則から退職金を算出してもらうことが可能です。
借金の督促や返済を一時的にストップできる
現在自己破産を検討する状況にいる場合、毎月の返済が大変重荷である、もしくは返済ができず毎日督促の連絡に負われている状態にいると思います。自己破産に限らず債務整理を弁護士に依頼することにより、一時的に督促や返済をストップすることができます。
弁護士が債務整理を請け負うと、各債権者に介入通知(委任通知)を発送します。通知には債務整理を開始すること、全ての連絡を弁護士事務所宛てに行ってほしい旨が記載されているため、通知発送後は金融機関からの連絡が一切なくなり、返済の義務も一時的になくなります。
日々返済や督促に負われている方にとっては、それが無くなるだけでも精神的な負担が大きく軽減するはずです。
より多くの財産を手元に残せる
破産手続きにおいて差し押さえられる財産は規定されていますが、自由財産拡張により手元に残せる財産を増やすことができます。自由財産拡張の申し立ては自分でも行うことができますが、正当な理由を申立書に記載する必要があるため専門家に依頼をしないと失敗するケースもあります。
また自己破産を多く請け負っている弁護士の場合は地域を管轄する裁判所の自己破産における方針を熟知しているため、どの程度までの財産であれば拡張が認められるかについても把握しています。弁護士に依頼をすることにより、最大限まで財産を手元に残すことができます。
まとめ
退職金は自己破産において差し押さえの対象となります。差し押さえられる範囲は自己破産を申し立てする際の状況により異なり、まだ退職の予定がない場合でも支給予定額の8分の1に相当する額を納めなくてはいけません。
また差し押さえられる金額を算出するためには、職場の就業規則を元に計算を行うか、退職金の金額を算出した退職金見込額証明書を発行してもらわなくてはいけません。退職金を受け取った後に破産手続きをしようと考える方も珍しくありませんが、退職金を受け取るとその時点で預金もしくは現金の財産として扱われるため、受け取った額の大半が没収される事になります。
退職金がある方は自己破産の実績が豊富な弁護士に手続きを依頼しましょう。弁護士に手続きを依頼することでスムーズに申し立てを勧められるだけでなく、第三者に破産がバレるリスクを減らし、より多くの財産を手元に残せます。