- 「自己破産したいけど、車はなんとか手元に残したい!」
- 「車がないと生活できない!自己破産で車が没収されたらどうしよう…」
自己破産の手続きを行うと、一部の債務を除いて借金の支払義務が免除されます。しかしそれと引き換えに財産を換金して債権者に分配することになるため、高額な財産は手元に残せません。自家用車を普段の生活で使用している方は、自己破産によって車が差し押さえられるか心配になるでしょう。
自己破産をすると原則として車も処分されますが、条件を満たしていれば車を手元に残せます。今回の記事では車を手元に残すための条件や手段を詳しく紹介します。車を残すために自己破産前にやってはいけないことも解説していますので、自己破産を検討していて車を手元に残したい方はぜひ参考にしてください。
自己破産で車を残せるケース
冒頭でお伝えした通り、自己破産をすると高額な財産は手元に残せません。自動車は一般的には高額な財産とみなされるため、自己破産に伴い車も処分されることになります。しかし自己破産をすると必ず車を没収されるわけではありません。
以下のいずれかに該当する場合は、自己破産をしても自動車を手元に残せます。
- ローンがなく車の時価が20万円以下
- 車の名義が本人ではない
- 車がないと日常生活に著しく支障がある
ローンがなく車の時価が20万円以下
自動車ローンが残っていない場合、もしくは所有権留保がついていない場合、車の価値によっては自動車を手元に残せます。
自己破産をすると高額な財産は換価されることになりますが、東京地裁の場合、具体的には20万円以上の価値がある場合は換価の対象となります。つまり20万円以上で売却ができないものは自己破産をしても手元に残せます。
自動車の売却額が20万円以下になる基準は、普通車の場合は初年度登録から6~7年程度、軽自動車の場合は4年程度が目安です。車の状況によって価格は変動しますので、買取を行っている業者に査定を依頼するか、ディーラーに下取り価格を算出してもらいましょう。
車の名義が本人ではない
自己破産の手続で差し押さえの対象となるのは、あくまでも自己破産を申し立てる本人の財産のみです。そのため自動車の名義が本人でない場合は差し押さえられません。
毎日の生活で自動車を自分のものとして扱っていたとしても、名義が本人でない限りは財産としてみなされないため、手元に残すことが可能です。
車がないと日常生活に著しく支障がある
車の価値が20万円を超えている場合でも事情がある場合は自動車を手元に残せる場合があります。自己破産をすると高額な財産は差し押さえられますが、生活に最低限必要なものは手元に残すことができ、これを「自由財産」と呼びます。
本来、時価20万円を超える自動車は自由財産に含まれません。しかし生活や仕事で自動車が不可欠だと裁判所で認めてもらうことにより、自由財産に含むことが可能です。これを自由財産の拡張と呼びます。
差し押さえられない財産の具体例
手元に残せる財産、すなわち自由財産に該当するものは以下の通りです。
- 時価20万円以下の財産
- 99万円以下の現金
- 破産後に取得した現金
- 裁判所が自由財産として認めた財産
- 破産管財人が財団から放棄した財産
- 法律で差し押さえが禁止されている財産
法律で差し押さえが禁止されている財産とは国税徴収法で規定されている以下のような財産を指します。
- 生活に欠かせない家具や寝具、衣類など
- 一か月分の食料、光熱費
- 職業上必要になる器具、道具など
- 仏像・位牌・印鑑など
自己破産で手元に残せる財産、差し押さえられる財産については、以下の記事で詳しくまとめていますので、併せて参考にしてください。
自己破産すると財産はどうなる?処分される・されない財産と財産隠しについて
自己破産で車が残せない条件
では逆に、自己破産で自動車を残せない条件についても確認しましょう。以下のいずれかに該当する場合、自己破産の申し立てによって自動車を没収される可能性が高いです。
- 自動車の査定額が20万円を超えている
- 自動車ローンがまだ残っている
- 自由財産の対象として認めてもらえない
自動車の査定額が20万円を超えている
繰り返しになりますが、自己破産の申し立てを行うと時価20万円を超える財産は差し押さえの対象となります。自動車を換金処分した際に20万円を超える場合、自動車を手放さなくてはいけません。
自動車ローンがまだ残っている
自動車ローンが残っている場合も、自動車を手元に置いておくことはできません。ディーラーで組むマイカーローンには、所有権留保が契約に盛り込まれている可能性が高いです。
所有者留保とは、自動車のローンを支払い終わるまでディーラーや信販会社が自動車を担保として所有することを指します。ローンの返済中に自己破産を行うとローン会社にも通知が行き、所有権のあるディーラーに自動車を引き上げられることになります。
銀行で組むマイカーローンの場合、所有権留保は契約に組み込まれていないことも多いです。自分の車の所有権がどうなっているかは、車検証の「所有者の氏名又は名称」の欄を確認することで分かります。所有権留保の対象の場合、そこにディーラーや信販会社等の名称が記載されています。
自由財産の対象として認めてもらえない
「足が不自由で車が必要」など、生活において自動車が不可欠な場合、裁判所に自由財産拡張を申し立てることにより、車を手元に残せる可能性があります。自由財産拡張が認められるためには、以下の3つを満たさなくてはいけません。
- 拡張適格財産である
- 総額99万円の範囲内である
- 拡張の必要性がある
拡張適格財産とは、手元に残すのに相応しい財産のこと。預貯金や退職金、保険解約返戻金、自動車が対象です。さらに金額にも規定があり、手元に残す財産(自由財産)の総額が99万円を超えない範囲での拡張が認められます。
さらに自己破産後に生活を立て直す上で必要不可欠だと判断され、自由財産の拡張の必要性があると認められなくてはいけません。つまり財産の性質や価格だけでなく、個々の事情によって判断されます。状況によっては、自動車が自由財産の対象として認められないケースもあり得ます。
車を残すためにやってはいけないこと
普段の生活で自動車を使っている方、自動車が好きな方にとっては、自己破産による自動車の差し押さえはできるだけ避けたいはずです。しかし以下のような行動を起こすと、状況次第で自己破産による免責が受けられなくなる恐れがあります。
- 車の名義を他人に変更する
- 車のローンだけを優先して支払う
- 自己判断で車を売る
車の名義を他人に変更する
先に解説をした通り、差し押さえの対象となる自動車は破産申立人の名義の自動車のみであり、家族名義の自動車は差し押さえられません。それを利用し、自己破産の申し立てを行う前に自動車の名義変更をしようとする方がいます。
しかし破産前に自動車の名義を変更することは、財産を故意に隠そうとする行為にあたります。財産隠しは免責不許可事由に該当するため、判明した場合は免責が認められない(借金の返済義務を免除してもらえない)恐れがあります。
なお免責不許可事由に該当しても破産手続きは進められますが、管財事件として扱われ、破産管財人によって免責に関する調査が厳しく行われることになります。高額な予納金が必要になる上、手続に日数もかかりますので注意しましょう。
車のローンだけを優先して支払う
所有権留保の対象になっているローンを返済中の場合、自己破産の手続き前に先に自動車ローンを返済しようと考える方もいるのではないでしょうか。自己破産手続きに際し、一部の債権者を優先して意図的に返済することは「偏頗弁済(へんぱべんさい)」と呼ばれ、免責不許可事由に該当する行為です。
自己破産では全ての債権者を平等に扱う「債権者平等の原則」が適用されているため、特定の債権者を優遇することは禁止されてます。車を残したいからといって、ローンの支払いを優先するのは絶対にやめましょう。
自己判断で車を売る
自己破産を行っても時価20万円以下の車は所有できます。そのため所有している車を売り、安い中古車に買い替えようと考える方も多いです。しかし財産を故意に処分する行為も免責不許可事由に該当するため、状況によっては免責が認められなくなる恐れがあります。
自動車に限らず、自己破産前や自己破産手続き中に財産を処分したい場合は、弁護士など専門家に相談の上で慎重に行いましょう。
自己破産しても車を残すためには
では自己破産をしても車を手元に残すために、具体的にどのような行動を取ればよいのでしょうか?項目に分け、詳しく解説をしていきます。
家族などにローンを支払ってもらう
先に解説した通り、自動車ローンの所有権がローン会社に留保されていた場合、自己破産を申し立てると自動車が引き上げられてしまいます。しかし自動車ローンを優先して返済すると免責不許可事由に該当し、免責の許可が下りない恐れがあります。
しかしどうしても車を手元に残したい場合は家族などに協力をお願いし、ローンを肩代わりしてもらうという方法を取れます。ローンを肩代わりしてもらい完済ができれば、所有権が返済をした人に移りますので、破産で引き上げられる心配はなくなります。
ただし第三者が代わりにローンを返済する場合、債権者の同意を得る必要がありますので注意しましょう。
自由財産拡張の申し立てを行う
自動車ローンの残高が残っている場合、上記の手段で返済を終わらせることにより、車を引き上げられるリスクを回避できます。しかし車に20万円以上の価値がある場合、破産手続きの際に換金され処分されることになります。
そのような時は裁判所に自由財産拡張の申し立てを行うことにより、破産手続き後も自動車を持ち続けられる可能性があります。
自由財産拡張は、破産手続開始決定が確定した日から一ヵ月以内に裁判所に申し立てます。所定の申立書に拡張を求める財産を明記し、拡張を求める理由を詳しく記載します。そして該当する財産の目録とともに提出を行いましょう。自由財産の拡張が認められる可能性がある理由は、以下のようなものが該当します。
- 仕事でどうしても必要
- 親の介護に必要
- 病院の通院に必要
自由財産拡張の基準は非常に厳しく、「どうしても生活に不可欠」ということを証明できないと自由財産として認めてもらえません。
破産後でも車は購入できる
「自己破産をした後は車は購入できない」と考えている方もいるかもしれませんが、実際にはそうではありません。
自己破産をすると信用情報がブラックになるため、一定期間の間ローンは組めなくなります。しかし車を購入することや所有すること自体は可能ですので、破産手続きが終わった後で安価な自動車を購入するという手段もあります。
弁護士に相談する
「車を手放したくない」という考えからとった行動が、後の破産手続きに影響することは決して珍しくありません。また自己破産において手元に残せる財産は細かく規定されているため、自動車を手元に残す際は他の財産との兼ね合いが必要になることもあります。
自己破産を検討していて、車を手元に残したいと考えている方は弁護士に相談・依頼することを強くお勧めします。自己破産を弁護士に依頼するメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- 自動車を手元に残す手段を模索できる
- 自由財産拡張の申し立てがスムーズにできる
- 他の債務整理の手段を選べる可能性がある
自動車を手元に残す適切な手段を選択できる
自己破産の前に自動車の名義を変更したり、ローンを優先して返済したりすると免責不許可事由に該当してしまい、破産手続きがスムーズに進まない恐れがあります。現在所有している車を売却し、差し押さえの対象にならない車を購入しようとしても、状況によっては免責不許可事由となることも。
自動車は高価な動産ですので、自己判断で行動を起こすことはお勧めできません。破産申し立ての前に弁護士に相談することにより、自動車を手元に残すための適切な手段を助言してもらえます。
自由財産拡張の申し立てがスムーズにできる
本来であれば差し押さえの対象である時価20万円以上の自動車でも、自由財産拡張の申立てを行うことで所有が認められるということは先に説明した通りです。しかし自由財産拡張の条件は大変厳しい点が特徴です。
種類や金額面の条件を満たしていても、本当に生活に不可欠だと判断してもらえない限り、破産後の自動車の所有は認められません。
債務整理の実績が豊富な弁護士はどのようなケースであれば自由財産拡張が認められるかを知り尽くしています。自由財産拡張の条件は裁判所によっても若干異なりますが、弁護士は管轄の裁判所の傾向を把握しているため、弁護士に依頼することで地域に応じた対策を取ってもらえます。
他の債務整理手続きができる可能性がある
自己破産は借金の返済を免除してもらえるという大きなメリットがある分、デメリットが大きい手続きでもあります。財産の回収は免れません。しかし他の債務整理の手段である任意整理、個人再生は財産を回収されないため、車を手元に残せる可能性が高いです。
自分では「自己破産しかない」と思っていたとしても、専門家の判断ではそうでないかもしれません。あなたにとって最善な方法を選ぶためにも、弁護士への相談をお勧めします。
任意整理
任意整理とは、債権者と交渉を行い将来利息などをカットしてもらい、返済計画を立て直す手続きです。任意整理には、手続きの対象にするローンを自分で選べるというメリットがあります。自動車ローンを返済している場合、自動車ローンを任意整理の対象から外すことにより、今まで通り自動車に乗り続けることが可能です。
自己破産と異なり裁判所を介さないため、手続に手間と時間がかからない点も魅力です。ただ減額の対象はは原則として利息部分のみであり、手続き後も返済を続ける必要がある点に注意が必要です。
任意整理については、以下の記事でさらに詳しく解説していますので参考にしてください。
任意整理と債務整理の違いは何?メリット・デメリット、任意整理に向いてる人を解説
個人再生
個人再生は裁判所に借金の返済が難しいことを申し立て借金を5分の1~10分の1程度に減額し、再生計画を立てる手続きです。任意整理と異なり、借金そのものを大幅に減額できる点がメリットです。
自己破産とは異なり財産を多く残せる可能性があり、自動車はローンを完済していれば原則として回収の対象とはなりません。個人再生については、以下の記事で解説していますのでぜひお読みください。
個人再生のメリット・デメリットを徹底分析!注意点・利用条件・他の債務整理との違いは?
まとめ
自己破産手続きを行うと借金返済の義務が免除されることと引き換えに、財産の多くが処分されます。一般的には車も処分されますが一定の条件を満たすことで手元に残せる場合があります。ただ自動車の時価が20万円を超えると自由財産拡張の申し立てが必要となり、簡単には認められないため慎重な対応が求められます。
また自己破産をする前に自動車の名義を他人に変更するなどの行為は、免責が認められなくなるリスクもあるため注意が必要です。自己破産を検討していて自動車を手元に残したい場合は自己判断で行動せずに弁護士へ相談することをお勧めします。法律事務所では無料相談を提供しているところも多いため、気軽に利用してアドバイスを受けるとよいでしょう。