- 「自己破産中に転勤で引っ越すことになった!どうしよう…」
- 「自己破産をすると引っ越しができなくなると聞いたけど本当?」
自己破産のデメリットについて調べた際「自己破産をすると引っ越しができなくなる」という情報を見かけたことはありませんか。実際に自己破産中の転居には裁判所の許可が必要となる場合がありますが、許可が下りず引っ越しができないという事例はほぼありません。
自己破産前や自己破産後の引っ越しは自由にできますが、気を付けなくてはいけない点があります。例えば自己破産前に引っ越しを行った場合、状況によってはその後の破産手続きに支障が出ることも。
こちらの記事では自己破産と引っ越しの関係や注意点について焦点を当てて解説をしています。自己破産と引っ越しの両方を検討している方、自己破産をきっかけに引っ越しをすべきか気になっている方はぜひ参考にしてください。
自己破産手続中の引っ越しは許可が必要
自己破産を行うと借金が全額免責されるという大きなメリットがありますが、その分デメリットが大きいことで有名です。自己破産に関するデメリットの中に「自己破産中は引っ越しができない」という事が挙げられていることもあります。
ただ実際に自己破産中に引っ越しができないという訳ではありません。以下に引用した破産法にも記載されている通り自己破産の手続き中でも、裁判所から許可を得ることで引っ越しができます。
(破産者の居住に係る制限)
第三十七条 破産者は、その申立てにより裁判所の許可を得なければ、その居住地を離れることができない。
引用元:e-GOV法令検索|破産法
手続きの流れは裁判所によって異なりますが、東京地方裁判所の場合はまず破産管財人に確認をし、同意を得てから裁判所に申し立てをするという流れを取ります。弁護士に破産手続きを依頼している場合は、弁護士を通して申し立てをしてもらえます。
無断の引っ越しは免責不許可事由になる事も
許可を得れば引っ越しが可能とお伝えしましたが、言い換えると許可を得ないと引っ越しができないということになります。
自己破産では財産の大半を差し押さえるため破産者の財産の調査が必要になります。破産手続き中は破産者が財産隠しをしたり逃亡したりすることを防ぐ目的により、無許可で引っ越しをしないよう制限が設けられています。
また破産手続き中は裁判所や債権者とやり取りをしなくてはいけません。必要なときに連絡が取れる状態でないと、破産手続きが進められなくなります。もし許可なしで引っ越しをした場合は先述の破産法に違反したことを理由に免責不許可事由となり、自己破産の免責が認められない(返済義務がなくならない)恐れも。
手順に沿って申請をすれば引っ越しの許可は下りますので黙って引っ越しをすることは絶対にやめましょう。
同時廃止事件は許可は不要
自己破産の手続きには「同時廃止事件」と「管財事件」があります。同時廃止事件とは破産手続き開始と手続き廃止(完了)が同時に終わる事件を指し、破産管財人が選出されません。同時廃止は手続きに日数がかからないため、引っ越しの許可は必要ありません。
東京地裁の場合、以下の全てに該当すると同時廃止事件として扱われます。
- 所持している現金が33万円未満
- 換価対象資産がそれぞれ20万円未満
- 免責不許可事由がない
- 法人や法人代表者・個人事業者ではない
同時廃止事件となる基準は地方裁判所により異なります。気になる方はお住まいの地域を管轄している法律事務所に確認をしてみてください。
自己破産をしたら引っ越しが必要になるケース
ここまでは自己破産中に引っ越しができるかどうかに焦点をあてて解説をしました。しかし自己破産についての情報を集めている方であれば破産者名義の自宅は差し押さえの対象となることをご存知かと思います。
自分名義の家に住んでいる場合、自宅は差し押さえの対象となるため住み続けることはできず、引っ越しをしなくてはいけません。しかし不動産が家族名義の場合は引っ越しは不要です。賃貸の場合も引っ越しをする必要はありませんが、状況によっては引っ越しが必要になるケースもあるので注意してください。
自宅が破産者名義の場合引っ越しが必要
自己破産の際は、現金に換算し20万円以上になる財産は原則として差し押さえられ、換価処分されて債権者に配当されることになります。そのため破産者名義の不動産、持家は差し押さえの対象となります。
住宅ローンが残っている場合でも住宅ローンを契約している金融機関が自宅に抵当権を設定しているため、住宅は金融機関によって競売にかけられることになります。いずれにせよ破産者名義の家には住み続けることはできません。
自己破産では生活に不可欠なものは手元に残せることになっています。それにも関わらず生活の基盤となる住居が差し押さえられるのは納得がいかない、という方もいると思います。しかし自己破産ではお金を貸した側の立場も保護しないといけません。差し押さえた財産で債権者の損失をカバーしなくてはならないため、価値の高い不動産は差し押さえの対象外にはなりません。
家族の家に住んでいる場合は引っ越し不要
差し押さえの対象となるのはあくまでも自分名義の財産に限ります。そのため家族名義の家に住んでいる場合は差し押さえ対象とならないため、引っ越しの必要はありません。
なお家族名義の不動産であれば差し押さえられない点に着目し、破産手続き前に自分名義の不動産を家族名義に変更しようとする人も実際にいます。このように意図的に差し押さえを回避しようとする行為、すなわち財産隠しに当てはまる行動は免責不許可事由に該当するため実際にやめましょう。
自己破産における財産隠しについては、以下の項目で詳しくまとめています。
自己破産ではどこまで調べられる?破産管財人の調査内容と財産隠しのリスクを解説
賃貸物件は引っ越し不要だが例外もある
賃貸物件を借りることは借金ではありません。そのためアパート等の賃貸物件に住んでいる場合は破産手続き後も引っ越しの必要はありません。しかし状況によっては引っ越しが必要になるケースがありますので注意してください。
賃貸の家賃を滞納している場合は引っ越しが必要
自己破産では借金について免責を受けることができますが、滞納した家賃についても免責の対象となります。もし家賃を滞納していて免責を受ける場合は住んでいる物件は契約解除となり、退去を求められることになります。
自己破産前に家賃の滞納をなくすことができれば破産後も住み続けることが可能ですが、破産手続き前にあらかじめ滞納している家賃を支払った場合は偏頗弁済とみなされる可能性があります。
偏頗(へんぱ)弁済とは特定の相手に優先的に借金を返済する行為のことで、自己破産においては免責不許可事由に該当します。具体的にどの期間の返済が偏頗行為に該当するかは専門家ではないと判断ができませんので、家賃を滞納している方は法律事務所に相談しその旨を伝えるようにしてください。
家賃がカード払いの場合は変更の可否を確認
賃貸物件の家賃をクレジットカード払いで行っている場合、自己破産手続きの前に必ず支払方法の変更を行えるか確認をしてください。自己破産をすると個人信用情報にそのことが記録されるため、現在使っているクレジットカードが使えなくなります。
物件や管理会社によっては、家賃の支払方法がクレジットカードに限られているケースがあります。仲介業者や大家さんに交渉をし支払方法をカード以外にできれば問題ありませんが、不可能な場合は引っ越しをしなくてはいけません。
自己破産後の引っ越しは自由にできる
「自己破産をすると引っ越しができない」という言葉だけを聞き、自己破産後も引っ越しが制限されるのではないか?と不安になる方もいるでしょう。実際にそのようなことはなく、自己破産後の引っ越しについては一切の制限がなく、自由に転居が可能です。
自己破産後も賃貸契約はできる
自己破産をして信用情報に事故情報が記録されると、他の金融機関がその情報を参照するためローンの契約やクレジットカードの使用、発行ができなくなります。いわゆるブラックと呼ばれる状態です。
しかし賃貸物件の契約はローンの借入ではありませんので、個人信用情報のデータが参照されることはありません。自己破産をしたことがバレることはなく、自分から伝える義務も一切ありません。そのため自己破産歴があっても賃貸契約を結ぶことは可能です。
賃貸保証会社に注意
最近では賃貸住宅を借りる際に賃貸保証会社(家賃保証会社)を利用することを条件にしている物件が増えています。賃貸保証会社は入居者が何らかの事情で家賃が払えなくなった場合、その分を立て替えて貸し手(大家)に支払うという役目を担います。
家賃保証会社は大きく以下の4つに分類ができます。
- 賃貸保証機構
- 全国賃貸保証業協会
- 独立系保証会社
- 信販系保証会社
賃貸保証機構、全国賃貸保証業協会はいずれも家賃保証を専門に行っている業者であり、それぞれ加入業者同士で情報の共有を行っています。独立系保証会社は協会・機構に加入していない会社の呼称です。これら3つに関しては金融機関や個人信用情報との連携を一切行っていませんので、破産歴が審査に影響することはありません。
ただ最後の信販系保証会社の場合は他の3つと違い信用情報を参照した上で審査を行うため、破産歴があると審査落ちする可能性があります。
信販系保証会社とは?
信販系保証会社とは信販会社、つまりカード会社が保証を行う会社です。契約の際にはカード審査の時と同じように個人信用情報を参照するため、信用情報がブラックの場合は審査に落ちる可能性があります。
クレジットカード会社の中で家賃保証も行っている会社は以下の通りです。賃貸契約の際は契約書の保証会社の欄に着目しましょう。
- アプラス
- エポスカード
- オリエントコーポレーション
- ジャックス
- セゾン
- セディナ
- ライフ
ただ賃貸契約は借金の契約と異なるため、破産歴があると絶対に審査に落ちるというわけではありません。実際に信用情報がブラックでも信販系保証会社の審査に通る人も多くいます。
万が一審査に落ちてしまった場合は信販系でない保証会社を利用している物件を探すようにしましょう。保証会社との契約でなく、連帯保証人を用意することで賃貸契約ができる物件もあります。
5年~10年後であれば住宅ローンが組める
自己破産をした後、いずれ住宅ローンを組んで自宅を購入したいと考えている方もいるはずです。繰り返しになりますが自己破産をすると個人信用情報にそのことが記録されるため、しばらくの間住宅ローンに限らずローンは組めなくなります。
ただ事故情報はずっと残るわけではなく5年~10年で自己破産の記録は消えますので、その後であれば住宅ローンを組むことが可能です。
自己破産をした際の信用情報の扱いについては、以下の記事で詳しくまとめていますので併せてお読みください。
ブラックリストはいつ消える?消し方は?個人信用情報をきれいにする方法
自己破産前に引っ越しする際の注意点
この記事をお読みの方の中には、転勤と自己破産の時期が重なってしまった等、何らかの理由により自己破産前に引っ越しをしなくてはいけない方もいるかもしれません。
破産前であれば好きに引っ越しをしても大丈夫だろう、と思い自己判断で決めることは大変危険です。状況によっては自己破産手続きが失敗することもあります。
高額の支出は破産手続きに影響する恐れが
引っ越しに際しては様々な費用がかかります。引っ越しにかかる全ての費用を自分で捻出することになった場合、かなりの出費になるはずです。
多額の出費をした後に自己破産をすると「財産が差し押さえられるのが嫌で意図的に使ったのではないか?」と疑われることがあります。破産手続き前の過度な出費は財産隠しと同じく免責不許可事由に該当し、破産手続きが失敗する恐れが。
引っ越しすることが前もって決まっていた場合、会社都合でやむを得ない事情での引っ越しは問題ないケースが大半です。
管轄する地方裁判所に注意
自己破産の申し立ては住んでいる地域を管轄している地方裁判所・支部に行います。引っ越しをしたあとに破産手続きを行う場合は転居後の住所を管轄する裁判所に申し立てを行うことになります。
自己破産に関する細かい規定は地方裁判所により異なります。これから依頼する法律事務所を探すという方は、引っ越し先の地域の法律事務所を探すようにしましょう。
自己破産前の引っ越しは専門家に相談を
既に法律事務所に依頼をしていて住んでいる地域が変わるという方も必ず担当の弁護士に相談をするようにしてください。居住地が事務所から遠くなった場合、債務整理の打合せができなくなり手続きが進められなくなる恐れがあります。
また繰り返しになりますが破産前の出費は免責不許可事由となるケースがあり、知識がない方が「これくらいなら大丈夫だろう」と判断するのは大変危険です。まだ専門家に依頼をしていないという方も、破産前の引っ越しが決まった時点で弁護士に相談することを強くお勧めします。
まとめ
自己破産をしても引っ越しはできます。手続き中は裁判所への許可が必要ですが、手順に沿って申請を行えば認めてもらえることが大半です。自己破産後の引っ越しには制限は全くありませんが、信用情報がブラックになることによる影響に注意しましょう。
賃貸の場合、信販系の家賃保証会社を利用すると審査落ちすることがありますが、他の保証会社を選ぶか連帯保証人を誰かにお願いすることで問題なく契約ができます。
自己破産前に引っ越しをすることになった場合、状況によってはそのあとの自己破産手続きに支障が出るケースがあります。弁護士事務所の無料相談を活用し、前もってアドバイスをもらうとよいでしょう。