- 「自分の会社を破産させようと思っているのだが、この先どうなるか不安」
- 「法人破産すると代表者も破産しなければならない?」
自分がやっている会社や自分が代表者になっている法人を破産させると決めたとき、気になるのは代表者本人や周囲の人への影響ではないでしょうか?事業を継続できないのはどうしようもないとあきらめたにせよ、従業員や家族になるべく迷惑をかけたくないと考える人も多いのではないでしょう。
そこでこちらの記事では、法人破産で代表者はどうなるかを中心に、代表者も破産する必要があるかや破産後の生活への影響を最小限にする方法を解説。法人破産したからといって、代表者や周囲の人の生活は続いていきます。よりリスクの少ない方法を選択できるように知識を付けておきましょう。
法人が破産した場合の影響について
まずは法人が破産したときの代表者や従業員、家族への影響について詳しく解説していきます。
法人破産とは
前提として、法人破産とは?ということについて見ていきましょう。法人破産とは、債務超過や支払不能になった会社の財産および負債を清算する手続きです。法人破産の方法は以下の4パターンあり、それぞれ申立権者(申立てをする人や団体)が異なります。
法人破産の種類 | 申立権者 |
---|---|
債権者破産申立て | 法人に金銭を取り立てる権利がある債権者が申立てる(銀行や取引先) |
自己破産申立て | 債務者である法人が法人破産を申立てる |
準債務者破産申立て | 法人の代表者が法人破産を申立てる |
監督官庁による申立て | 一部の法人を監督する官庁が法人破産を申立てる |
申立権者が誰なのかという入り口は違うものの、申立てを行うと裁判所に選任された破産管財人が会社の財産を処分、債権者へ配当し、最終的に会社の法人格が消滅します。会社のためというよりは、債権者や利害関係者のための手続きといえるでしょう。
個人の自己破産との違い
個人にも「自己破産」いう手続きがありますが、法人破産とはどのように違うのでしょうか。
免責の扱い
法人破産と個人の自己破産では、免責許可の手続きや免責の扱いが次のように異なります。免責とは、ローンや借入金、融資などの債務(借金)を返済する義務がなくなるということ。つまり借金を返済しなくてもよくなるということです。
法人破産 | 破産手続によって100%免責 |
個人の自己破産 | 免責許可の手続きが必要で、100%免責とは限らない |
法人破産すれば100%免責されるのですが、個人破産では免責を許可するかどうかの審査があり、その審査をクリアできれば免責されるという違いがあります。
個人の自己破産の免責不許可事由については、こちらの記事を参考にしてください。
「自己破産の免責不許可事由の11項目を解説!免責が下りなかったときの対処法とは?」
財産の取り扱い
法人破産と個人の自己破産とでは、財産の取り扱いも次のように異なります。
法人破産 | 100%処分される |
個人の自己破産 | 一定の財産(自由財産)を持つことが認められている |
法人破産の場合、法人名義の財産はすべて処分されて債権者への返済に充てられます。しかし個人の自己破産では、破産後も個人の生活が続くため、最低限度の財産を保持することが破産法で認められています。子の財産のことを自由財産といい、次のような財産が該当します。
- 99万円以下の現金
- 破産後に取得した財産
- 差押禁止動産(生活必需品・1か月分の食料や燃料・職業柄欠かせないもの・仏像や位牌など祭祀に必要なものなど)
- 差押禁止債権(給与の3/4・年金・円光保険・生活保護など)
税金の扱い
税金の扱いも、法人破産と個人の自己破産で変わってきます。
法人破産 | 100%消滅する |
個人の自己破産 | 非免責債権のため、納付義務は残る |
法人破産の場合、法人に対しての税金は100%消滅します。一方の個人の自己破産では、税金は免責しても支払い義務がなくならない「非免責債権」に該当するため、自己破産後も税金の納付義務はなくなりません。
法的には法人と代表者は別人格
法人破産による代表者への影響を考える上で重要なのは、「法的に法人と代表者は別人格」であるということです。法人は「人」でないのにと奇異に見えるかもしれませんが、法律上、会社や企業などの「法人」は人間(自然人)以外の「人」とされ、権利義務の主体になることができる対象です。法人自体が権利を持ち義務を負う訳なので、法人の財産や債権は法人のものとみなされます。
つまり法人が破産したからといって、別人である社長や理事などの代表者に直接権利や義務が及ばないという訳です。法的には法人破産したからといって、代表者が一緒に破産する必要や法人の債務を負担する義務を負うことはないということになります。
裁判所の運用によりセットとして扱われることも
法的に法人と代表者は別人格とはいえ、裁判所の運用により事実上セットとして扱われる可能性があります。というのも法人と代表者は別人格であるものの、相互に財産を移し替えることが容易にできるからです。
- 法人名義の口座から現金を引き出し、代表者個人名義の口座に入金する
- 法人所有の不動産を代表者個人に所有権登記を移転する
また次のような債権の移動も簡単にできてしまうでしょう。
- 役員報酬を後回しにする(代表者が法人に対する報酬請求権や貸付金債権を有している)
- 使途不明金を役員貸付けとして処理する
上記のような債権の移動や財産隠しがないかを懸念して、裁判所では法人のみや代表者個人のみの破産申し立てについては、裁判所の審査が厳しくなったり裁判所に納める予納金が高額になったりします。例外的な事情がない限り、上記のような理由から代表者が破産する場合には法人も破産することがほとんどです。
法人の種類によって変わってくる
法人の種類によっても、代表者への影響が変わってきます。主な法人の種類には、以下の4つがあります。
- 株式会社
- 合同会社(持分会社)
- 合資会社
- 合名会社
このうち、合資会社の無限責任社員と合名会社の社員は、法人が負債を支払うことができなければ個人もその返済義務を負うことになります(会社法第580条)。つまり法人の滞納税金や社会保険料の支払いを破産法人ができない場合、合資会社の無限責任社員と合名会社の社員はそれらを支払わなければならないということです。
損害賠償を支払わなければならない可能性
法人が破産すると、代表者が損害賠償を支払わなければならない可能性が出てきます。例えば次のようなケースでは、代表者が法人に代わって損害賠償を支払わなければならない恐れがあるでしょう。
法人に対する損害賠償責任がある場合
代表者が法人に対して有している義務(忠実義務・善管注意義務)に違反し、職務を怠り損害を与えた場合には、法人に対して損害賠償金を支払わなければなりません(会社法第423条)。具体的な例は次の通りです。
- 代表者の経営判断の失敗により、法人に損害を与えた
- 代表者が法令に違反する行為をした
- 法人の違法行為を見逃していた
取引先など第三者に損害賠償責任がある場合
代表者の悪意または重大な過失、および書類(計算書類・会計書類・営業報告書等)に虚偽記載をしたことにより、職務を怠り第三者が被害を被った場合には、第三者に対して損害賠償金を支払わなければなりません(会社法第429条)。
例えば代表者の指示のもとで粉飾決済を行い、その決算書をもとに融資を引き出した後で破産したような場合です。融資を実行した金融機関としては、本当の決算書類で検討していれば融資を行わなかったということがあります。そのような場合には、代表者は金融機関や取引先に対して損害賠償責任を負担しなければなりません。
破産管財人から損害賠償請求をされる場合
法人破産に際して、破産管財人から損害賠償請求されるケースがあります。例えば「財産散逸防止義務違反(破産法第85条)」を犯した場合などです。財産散逸防止義務違反とは、債権者に分配する原資となる財産を減少させてしまったような場合が該当。
代表者には、破産財産に組み入れるべき財産が減少しないように管理保全しなければならないという義務があります。例えば法人破産の前に代表者が一部の取引先のみ優遇して借金の返済を行ったような場合は、財産散逸義務違反を犯したとみなされ、破産管財人から損害賠償請求されてしまいます。
滞納税金・社会保険料について
法人破産した場合、滞納税金や滞納した社会保険料を代表者が納付しなければならないという義務はありません。ただし代表者がこれらの滞納分について個人保証をした場合には、当然のことですが納付義務を負担することとなります。
また破産した法人の事業を、代表者個人や生計を一にする親族に不当に安い値段で譲渡し事業を継続した場合には、事業を譲り受けた第三者が「第二次納税義務者」となり、法人が負担していた税金の支払いを税務署から求められることがあります。
役員報酬は受け取れない
法人破産の手続き中、未払いの従業員給与は支払うことができますが、役員報酬は従業員給与とは扱いが異なるため受け取ることができません。うっかり役員報酬を受け取ってしまうと、特定の債権者にのみ偏った支払いをする「偏頗弁済(へんぱべんさい)」とみなされてしまう可能性が高いでしょう。
この事実が明らかになった場合、破産管財人による否認権行使の対象となり、役員報酬の返還を求められる恐れが。役員報酬をどうするかについては、弁護士に確認するようにしましょう。
周囲の人への影響
法人破産によって、代表者の家族や従業員へはどのような影響が及ぶのでしょうか。
家族への影響
法人破産したとしても、原則として代表者の家族に影響が及ぶ心配はありません。ただし代表者自身が法人の連帯保証人になっていた場合、法人破産に伴い代表者自身も自己破産となります。代表者名義の住宅や車、預貯金などを処分した結果、生活環境が大きく変わるなど事実上の影響を受ける可能性があります。
従業員への影響
法人破産によって会社の法人格が消滅してしまうので、従業員との雇用契約も解消されます。そのため実務的には、法人破産を裁判所に申立てる前に従業員全員を解雇するのが一般的でしょう。労働基準法第20条では、従業員を解雇する場合には30日前までに解雇の予告をしなければならないとしています。
とはいえ、あまり早い時期に解雇してしまうと、破産しようとしていることが債権者に伝わり、混乱が起きる恐れがあります。そのため多くの法人破産の場合、一部の重要な従業員にのみ先に説明し、その他の従業員には破産の直前に告知するのが通常です。
従業員への給与や退職金も債権に含まれる
従業員に対する給与や解雇予告手当、退職金に未払いがあったときには、それらの請求権も法人に対する債権に含まれます。破産手続において従業員に支払う給与や退職金は、他の債権と比べて優先的に弁済を受けられます。しかし支払えるだけの十分な財産がないときには、未払いのまま破産手続きが終了することも。
そのようなときに利用できるのが「未払賃金立替制度」です。未払賃金立替制度とは、会社倒産により未払いになっている賃金の80%を国が立て替え払いする制度。全額受け取れるわけではありませんが、法人破産で十分な配当を受けられない従業員にとっては大切な制度。解雇した従業員にはしっかりとこの制度のことを周知させる必要があるでしょう。
法人破産と代表者の自己破産
法人と代表者は別人格のため、法的には一緒に破産する必要がないものの、実務上は法人の破産手続と同時進行で代表者個人の自己破産も進められるのが一般的。こちらでは代表者が破産しなくても良いケースや代表者が破産する可能性が高いケース、代表者だけの破産が可能かについて解説していきます。
代表者が破産しなくてもよいケース
代表者が破産しなくてもいいのは、次のようなケースに限られます。
会社と完全に別会計
会社と代表者の会計が完全に別で、法人破産しても代表者に何の影響もない場合は、代表者が自己破産する必要がありません。例えば会社の債務の連帯保証人になっていない、代表者名義での借入が一切ないような場合です。
代表者も破産になる可能性が高いケース
一方で代表者も法人破産と同時に、自己破産になる可能性が高いのは以下のケースです。
連帯保証人になっている
法人名義の借入の連帯保証人になっていると、代表者も自己破産をせざるを得ないでしょう。法人が破産すると、連帯保証人である代表者に負債の返済義務が生じます。法人の借入額は数千万円になるケースが多く、代表者個人の財産をすべて処分しても到底完済しきれません。
そのようなときに代表者個人も破産する必要があるでしょう。借り入れの他に事務機器のリース契約や事務所などの賃貸借契約を結ぶときに、代表者が連帯保証人になっているケースがあります。
会社に借金をしている
代表者が会社からお金を借りている場合、代表者も自己破産する可能性が高いでしょう。このようなケースでは代表者は会社に借金を返済する義務を負います。こちらも個人の資産の範囲内で返済できればいいのですが、返済できないと自己破産するしか方法がありません。
個人の借入を運転資金に充てていた
代表者個人名義の借入を会社の運転資金に充てていた場合、代表者も自己破産となる可能性が高いでしょう。通常代表者がカードローンや不動産担保ローンなどで借入して会社に資金を投入するのは、会社の資金繰りが悪化してきているときです。
この場合、会社が倒産したら投入した資金はかえって来ません。一方でローン会社からの督促は続いていくわけで、個人的に借りていた借金を返済できないと、代表者も自己破産しなければならないでしょう。とくに中小企業の場合、法人と代表者との間で金銭の貸借があることが多く、このような状況だと代表者も一緒に自己破産とになります。
法人破産せず代表者だけ破産できる?
では法人を破産させず、代表者だけ破産することは可能なのでしょうか。結論からいうと、代表者だけ破産するのは難しいでしょう。というのも破産時に代表者個人の財産と法人の財産とが混同されやすく、代表者が保証人になっていたり、未払いの役員報酬があるなど管財人によるトータルな調査の必要があるため。
また代表者が破産することで取締役の委任契約が終了、法人の代表者が不在になってしまいます。財産や債務を清算されない状態で法人だけが残ることとなり、税法上の損金処理が難しくなるのも理由に挙げられます。そのため代表者の自己破産を申立てるときには、できるだけ法人破産の申立も行うことが求められています。実際には、代表者のみの破産申し立てを受け付けないという裁判所も多いようです。
代表者が破産した場合に起こること
法人が破産すると、多くの場合で代表者も破産することになります。こちらでは代表者が自己破産したときに起こることについて、解説していきます。
ブラックリスト状態になる
代表者だけでなく、個人が破産すると個人信用情報機関に事故情報として登録され、いわゆるブラックリスト状態となります。ブラックリスト状態になるのは破産後5年~10年の間。この間は次のようなことに制限がかかってきます。
- クレジットカードが使えなくなる
- クレジットカードが新規で作れない
- 各種ローンが利用できない
- 分割払いが利用できない
- 他人の保証人になれない
- 一部の賃貸物件の契約ができない
とはいえブラックリスト状態になるのは、自己破産した代表者のみ。配偶者でも自身の個人情報に影響が及びません。代表者がブラックリスト状態でも、配偶者名義でクレジットカードを作ったり、ローンを組むことが可能です。
家族が保証人になっていると影響が出る
ただし家族が法人や代表者の借入の保証人になっていると、家族にも影響が出ます。例えば代表者の個人名で借入するときに、家族を連帯保証人にしたようなケースです。このような状況だと、代表者が事故破産すると、返済の義務がすべて連帯保証人である家族に移ります。場合によっては家族も自己破産を選択せざるを得ないでしょう。
自己破産したときの保証人への影響については、こちらの記事を参考にしてください。
「自己破産すると連帯保証人はどうなる?借金の前と後&パターン別の対処法」
代表の立場を追われる
代表者が自己破産すると、代表の立場を追われてしまいます。もっとも、法人も破産するわけなので、会社の法人格そのものも消滅します。代表者は破産によって無職になることが避けられません。ただ法人破産の手続きが終わった後なら、再び会社を設立すれば役員になることが可能です。
再就職で資格制限を受ける
自己破産した代表者が再就職を目指すときには、「資格制限」に注意が必要です。資格制限とは、破産手続き中に次のような資格や職業が一定期間制限されることを言います。破産手続開始決定後から免責許可決定の確定までの間は、このような仕事に就くことができません。
- 士業(弁護士・司法書士・行政書士・税理士・公認会計士など)
- 警備員
- 生命保険外交員
- 貸金業
- 質屋
- 探偵業など
他にも様々な資格や登録、免許や許可が制限されます。対象となる資格を生かした再就職を考えている場合は、免責決定が確定するまで待ってから再就職活動を始めましょう。
自己破産の状況別デメリットについては、こちらの記事を参考にしてください。
「自己破産のデメリットを状況別に解説!誤解や嘘を解決して最適な選択へ」
新事業で制限を受ける可能性
破産後に新しく事業を始めたり、会社を作ることは可能です。ただし破産後に事業を行う場合には、次のような制限を受ける可能性があるでしょう。
- 金融機関からの融資を受けられない
- 旧法人の取引先と取引を継続するのが難しい
- 従業員を確保するのが困難
財産が処分される
代表者が破産すると、生活に必要な最低限の財産を除いてすべて債権者への配当にあてられます。例えば次のような個人資産が処分されると考えてください。
- 不動産
- 車(20万円以上の査定額がつくもの)
- 預貯金
- 保険
- 積立金
- 出資金
- 株式や投資信託
自己破産で処分される・されない財産に関しては、こちらの記事を参考にしてください。
「自己破産すると財産はどうなる?処分される・されない財産と財産隠しについて」
官報に個人情報が載る
代表者が破産すると、国が発行している「官報」という機関誌に掲載(公告)されます。掲載される情報は破産者の住所や氏名、破産の事実などです。官報はインターネットや紙面を購入することで一般の人も閲覧可能ですが、実際に内容をくまなくチェックしている人はほぼいないでしょう。
そもそも法人の代表者が破産するときに周囲に秘密にしておくのは困難です。このようなことから官報に載ることを過剰に気にする必要がないと考えます。
官報に掲載されるタイミングや確認方法については、こちらの記事を参考にしましょう。
「自己破産すると載る官報について解説!掲載のタイミングや確認方法、バレる可能性とは」
会社員の破産との違い
法人の代表者が自己破産した場合と、会社員が自己破産した場合では、どのような違いがあるのでしょうか。
仕事を失うかどうか
会社員が自己破産してもそれが原因で仕事を失うことはありません。一般的に自己破産は解雇理由にならないからです。一方の代表者は、自己破産するとほぼ確実に仕事を失うでしょう。破産後に新たに事業を立ち上げたり、就職活動をして収入を得る方法を考えなければなりません。
家族に内緒にするのは難しい
会社員の自己破産では、家族に秘密にしたまま手続きを終えることも可能です。自己破産には同時廃止と管財事件の二種類があり、自己破産をする人のほとんどは同時廃止となります。同時廃止は破産管財人が選任されず、破産手続開始決定と同時に破産手続が廃止(終了)する手続き。手間も時間もかからず簡単に終わるので、家族に知られるリスクも少ないでしょう。
一方の代表者の場合、法人も一緒に破産することから、家族に内緒にしたまま破産することは難しいでしょう。
代表者以外の自己破産が家族にバレるかについては、こちらの記事を参考にしてください。
「自己破産すると家族にバレる?バレる8つのケースと対処法を紹介!」
管財事件になる
代表者が自己破産する場合、ほとんどのケースで管財事件になります。上で説明した通り、会社員は財産がほとんどなければ同時廃止で終わる可能性が高いでしょう。しかし法人と同時に破産することが多い代表者の破産の場合、同時廃止は適用されず必ずと言っていいほど管財事件となるでしょう。
代表者の生活に関する影響と対策
法人破産すると、高い確率で代表者も自己破産することになります。ここでは自己破産した後の代表者の生活に関する影響と、その影響を最小限にする具体的な対策について解説していきます。
自宅に住み続けるためには?
代表者名義の自宅がある場合、自己破産すると自宅に住み続けられなくなります。不動産は換価できる財産として、売却され債権者への返済に充てられるからです。新たに住む場所を探して引っ越しを余儀なくされるでしょうが、こちらで紹介する方法を選択すると、自宅に住み続けられるかもしれません。
個人再生を選択
法人破産は避けられないものの、代表者は自己破産以外の債務整理を選択して破産をしない方法もあります。とくに家族のために自宅を残しておきたいと考えるなら、個人再生を選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。個人再生とは、自己破産同様裁判所に申し立てて、借金を大幅減額できる手続き。
手続き後に返済すべき借金が残りますが、住宅ローンを払い続けることで持ち家を残せる「住宅ローン特則」が使える可能性も。ただし代表者自身の手続き後の収入が確保できることや、個人再生の要件を満たす必要があります。
法人名義の借入や保証債務が高額だったりすると、個人再生を選択できるケースはそれほど多くありません。あくまでも選択肢の一つとして検討すべきでしょう。
個人再生で住宅ローンがある持ち家を残すには、こちらの記事を参考にしてください。
「個人再生で住宅ローンはどうなる?特則適用の条件・巻き戻し・手続き後のローンについて」
リースバックを利用
法人破産で代表者名義の不動産に抵当権が設定されているケースでも、必ず競売にかけて売却する必要はありません。リースバックを利用できれば、競売よりも高く不動産を売れ、以後は家賃を払いながら住み続けられます。抵当権者がいる場合は、いくら払えば抵当権を解除してもらえるか抵当権者と交渉しなければなりません。抵当権者がいない場合でも、売却金額をいくらで設定するかや、いつ売却して売却できたお金をどのように保管しておくかなどの問題点があります。
任意売却
抵当権者と交渉し任意売却が可能な場合は、親族などに任意売却し、今後はその親族に家賃を支払いながら住み続けるという方法があります。任意売却とは、住宅ローンが残っているマイホームの売却方法のひとつで、抵当権を設定している金融機関の合意のもと、第三者に売却する方法です。任意売却だと競売にかけるよりも高く売れるのが大きなメリット。
とはいえ親族がローンを組んで購入する場合、金融機関が簡単にローン審査を通さない可能性があります。こちらもあくまで選択肢の一つとして考えておいた方がいいでしょう。
車はどうなる?
代表者が自己破産すると、20万円以上の価値がある車も手放さなければなりません。車が必須の地域や、家族がいる場合は不便な生活になることは間違いありません。こちらでは車を手放さなければならないケースと、手放さなくても良いケースに分けて解説していきます。
手放さなければならないケース
車を手放さなければならないのは、法人がリース契約している車を代表者が個人的に使用している場合です。法人破産によりリース会社が車を回収するので、原則として車に乗り続けることは不可能です。また代表者名義の車でも、カーローン返済中であればローン会社が車を引きあげます。
破産時点で車の査定額が20万円を超えるような比較的新しい車や外国車、スポーツカーやハイブリッド車などは自己破産で処分される可能性が高いでしょう。
手元に残しておけるケース
代表者が所有している車にローンが残っておらず、査定額が20万円以下の場合は、手元に残して置ける可能性が高いです。明らかな基準でないものの10年以上経過している車は、自由財産と判断される確率が高いといえます。
また破産申立てする前に会社から買い取ったり、破産手続開始決定後に破産管財人から買い取ることも可能です。もっとも査定額が適正かどうかなどを厳しくチェックされることになり、後者の場合でも必ず買い戻せるという保証はありません。
生活できないときは?
破産後、仕事を失って生活できないときには、どうしたらいいのでしょうか。
年金について
年金については国民年金や厚生年金といった「公的年金」と、個人年金のような「私的年金」とでは扱いが変わってきます。
公的年金
公的年金の受給権は「差押禁止財産」に当たるとされ、自己破産しても差し押さえの対象から外れます。まだ年金を受給しておらずこれから受給予定という場合も、同様の扱いになると考えましょう。そのため、「自己破産すると年金さえもらえなくなるのでは?」と心配する必要はありません。
ただしすでに受け取って現金で手元にある年金や、銀行口座に預金として残っている年金は、自己破産により処分されてしまう可能性があります。すでに受け取った年金は「現金」や「預貯金」とみなされるからです。99万円をこえる現金や20万円以上の預貯金は処分の対象となります。
私的年金
私的年金の中でも「解約返戻金」のある年金(個人年金保険)は、解約返戻金が20万円を超えると処分の対象になるため、保険を解約せざるを得なくなります。これは生命保険や学資保険なども同じです。私的年金には他にも、国民年金基金・確定拠出型年金・確定給付企業年金などがあります。
生活保護について
法人破産と代表者の自己破産を行うときに、「これから生活保護を受給することは可能なのか」という心配をされる方がいます。結論からいうと、破産後に生活保護を受給することは可能です。そもそも破産手続と生活保護は全くの別物で、生活保護受給権は差押禁止財産として処分される心配がないからです。
もちろん生活保護を受給するには要件を満たす必要がありますが、破産したことで生活保護を受給するのに不利になることはありません。また生活保護を受給したうえで自己破産することも可能です。
法人破産と個人の自己破産の大きな違いは、破産手続き後にあります。法人破産は破産して財産と負債を処分すれば法人としての命はそこで終わりになりますが、個人の自己破産では破産後も生活が続きます。自己破産は破産者の生活再建のための制度でもあります。そういった点からも、自己破産後に生活ができないのでは?と心配する必要はないと考えます。
法人破産・代表者が破産するときの注意点
法人破産や代表者が破産するときには、次のような点に注意が必要です。
特定の債権者に返済しない
法人破産をする場合、古い付き合いのある取引先に迷惑をかけたくないという想いから、特定の債権者にのみ返済をしてしまうケースがあります。しかしこのような行為は、破産法第162条に規定されている「偏頗弁済(へんぱべんさい)」に当たり、破産手続に様々な悪影響を与えます。
そもそも破産手続においては、全ての債権者を公平に扱わなければなりません。偏頗弁済はこの原則に違反するとして、破産管財人により弁済が否認されます。弁済を受けた債権者は、破産管財人に同じ金額を返金しなければなりません。
また偏頗弁済を行った側は、破産法第266条の「特定の債権者に対する担保の供与等の罪」が成立し、5年以下の懲役または500万円以下の罰金及びその両方が科せられる可能も。個人の自己破産で同じことをすると免責が認められず、借金がゼロになりません。
偏頗弁済になりやすい例と回避術については、こちらの記事を参考にしてください。
「偏頗弁済はバレる?個人再生・自己破産でやりがちな例とバレた後で起こること、回避術とは」
直前の財産処分は財産隠しを疑われる
法人破産や自己破産の直前に、財産を処分したり、会社名義から親族名義に変更するような行為は、財産隠しを疑われる可能性が高いでしょう。こちらも偏頗弁済と同様、破産管財人による否認権行使の対象です。また以下のような行為は、破産詐欺罪に該当するとして、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはこの両方という重い刑罰が科されます。
一 債務者の財産(相続財産の破産にあっては相続財産に属する財産、信託財産の破産にあっては信託財産に属する財産。以下この条において同じ。)を隠匿し、又は損壊する行為
二 債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
三 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
四 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為
破産手続きを裁判所に申立てるときには、財産目録や預金通帳、課税証明書など財産に関するあらゆる書類をt提出しなければなりません。破産管財人はそうした財産を調査するプロです。絶対に財産隠しがバレてしまうでしょう。たとえ少しでも財産を多く残したいと思っていても、財産隠しに当たるようなことは絶対にやめましょう。
破産管財人は何をどのように調べるかについては、こちらの記事を参考にしましょう。
「破産管財人はどこまで調べる?自己破産の管財事件での調査内容・方法と財産隠しについて」
手続き中は移動の制限がある
破産手続き中は、代表者に移動の制限が課されます。具体的には引っ越しや海外旅行など、居住地を離れる場合には、たとえ短い間でも裁判所の許可が必要です。破産管財人が選任される管財事件では、常時裁判所や破産管財人と連絡が取れるような状態でいなければなりません。
法律上移動に制限を受けるのは、破産開始決定後から免責決定までの半年から1年程度。黙って旅行したりすると、個人の自己破産では免責が認められなくなる恐れがあります。移動するときには、必ず事前に裁判所の許可を取ってからにしましょう。
自己破産中の引っ越しに関する注意点は、こちらの記事を参考にしましょう。
「自己破産中の引っ越しは許可が必要?破産手続き中や自己破産前後に引っ越す際の注意点を解説」
破産管財人には協力的な態度で
法人破産でも個人の自己破産でも、破産管財人には協力的な態度で臨んでください。破産手続中は代表者や破産者に次のような義務が課せられています。
- 裁判所が指定する財産目録を提出しなければならない(破産法第41条)
- 調査期日に裁判所に出頭しなければならない(破産法第121条3項・122条2項)
- 破産管財人や債権者集会で必要な説明をしなければならない(破産法第40条)
さらに管財事件では、上で説明した移動の制限や、一定期間郵便物が破産管財人に転送されるなどの制限があります。破産手続をスムーズに終わらせるには、破産管財人や裁判所に対して協力的な態度で臨みましょう。
まとめ
法人と代表者は法的に別人格とみなされているものの、個人保証をしていたり金銭のやり取りが行われることが多い中小の企業では、法人破産すると代表者も自己破産せざるを得ません。また代表者が法人や取引先に対して損害を与えた場合、損害賠償金を支払う義務が生じます。
代表者も自己破産となると、一定以上の財産が処分されブラックリストに載ることによる影響は避けられません。また新事業をおこす場合や再就職で影響が出ることも。とはいえ従業員や家族など周囲の人への影響を最小限にする対策があります。とり得る対策や手段を講じて、避けられない破産へと舵を切りましょう。
破産をスムーズ終わらせるには、財産の名義を変えたり処分したりといった財産隠しとみなされる行為はNGです。破産管財人による否認権行使の対象となるようなことはせず、担当弁護士にアドバイスをもらいながら、破産管財人に協力的な態度を示しましょう。