- 「奨学金返済を免除する方法が知りたい」
- 「奨学金を返済できないときの対処法は?」
奨学金を受けている学生の割合は、全学生の半数近くもいます。中には様々な理由で、奨学金の返済が厳しいという方もいるでしょう。では奨学金が免除になる制度はあり、その制度を利用するにはどのような条件・手続きが必要になるのでしょうか。
こちらの記事では奨学金返済の免除についてやその他の支援制度について詳しく解説。さらに、奨学金を返済できないときの注意点についても紹介していきます。奨学金の返済が心配な方はもちろんのこと、すでに奨学金の返済が困難になってきている方は、ぜひ参考にしましょう。
奨学金返済が免除になる2つの制度
日本学生支援機構の調査によると、奨学金を受けている学生の割合は4年制大学で49.6%、短期大学で56.8%もいます。この割合は年々増加していて、非正規雇用の増加や景気の悪化などで奨学金の返済が難しいという人も中にはいるでしょう。
そこで日本学生支援機構では、次の二つの奨学金免除制度を設けています。奨学金の返済が苦しいという方は、条件に該当するかチェックしてみましょう。
「特に優れた業績による返還免除」
日本学生支援機構では、特に優れた業績を上げた学生に対し、奨学金の返済(返還)免除制度を設けています。免除割合は、半額もしくは全額の2種類あります。それぞれ日本学生支援機構が定めた独自の要件を満たすことが条件です。
日本学生支援機構の認定結果によると、令和3年度に認定を受けた人の割合は以下の通りです。
課程 | 奨学金貸与終了者数 | 半額返還免除者数(割合) | 全額返還免除者数(割合) |
---|---|---|---|
修士課程 | 18,820 | 4,376(23.3%) | 1,270(6.7%) |
専門職学位課程 | 937 | 216(23.1%) | 65(6.9%) |
博士課程 | 2,088 | 483(23.1) | 393(18.8%) |
対象者
特に優れた業績による返還免除を受けるには、大学院大院(修士課程・専門職学位課程・博士課程)に進んでいる必要があります。また第一種奨学生で、当該年度中に貸与が終了する人が対象です。第一種奨学金には、海外大学院学位取得型対象も含みます。
貸与終了時に卒業する大学に申請し、大学長からの推薦を受けて日本学生支援機構の審議を経て、免除されるかが決定。大学院に進んでいない人や、すでに大学を卒業して就職している人は、免除の対象になりません。また第一種奨学金は、無利子で受けられる貸与型の奨学金のこと。有利子の第二種奨学金を受けている方は対象外となります。
免除が認められる条件
免除が認められる条件として、貸与期間中の在学している課程で、日本学生支援機構の定めた「特に優れた業績」を上げることが必要です。博士課程では原則として「学位論文やその他の論文」の業績が、第一の評価対象となります。他にも日本学生支援機構の定める下記のような評価基準に基づいて、各大学が独自に評価項目を設定したうえで総合的な評価を行います。
- 学位論文その他の研究論文
- 大学院設置基準第16条に定める特定の課題についての研究の成果
- 大学院設置基準第16条の2に定める試験および審査の結果
- 著書、データベースその他の著作物
- 発明
- 授業科目の成績
- 研究または教育に係る補助業務の実績
- 音楽・演劇・美術その他芸術の発表会における成績
- スポーツの競技会における成績
- ボランティア活動その他の社会貢献活動の実績
- その他日本学生支援機構が定める業績
大学院で何を学んだかによって、対象とする業績の種類が異なります。詳しくは、日本学生支援機構のHPを参考にしましょう。
参考:特に優れた業績による返還免除の手続き|日本学生支援機構
免除を受けるための秘訣
特に優れた業績による返還免除を受けるには、いくつかの秘訣があります。こちらの免除を受けたいという方は参考にしましょう。
申請書の書き方
返還免除を受けるには、大学から受け取った「業績優秀者返還免除申請書」と、特に優れた業績を証明する資料を共に提出する必要があります。申請書には大学院における研究課題等や業績の種類について記入するわけですが、ここで実績がいかに有意義であるかどうかを主張できるかがポイントになります。
申請書の内容をもとに、項目ごとに0~2点の点数を決めていき、合計点の多い順に免除が受けられるため、いかに業績の内容で加点を増やすかが分かれ道に。場合によっては研究室選びから重要になる可能性があります。
学外の業績もポイントに
免責が認められるためには、学外の業績もポイントになります。学外の業績とは次のようなものです。
- 学外の学会発表
- 表彰の有無
- 海外発表
- ジャーナル紙への論文掲載
- プレスリリース
- 特許出願
- ボランティア活動
とくに加点ポイントが高いとされるのは、英語論文や特許の有無です。とはいえ、共著者や共同研究企業の協力がないと難しい側面があるため、比較的獲得しやすい業績で、確実にポイントを重ねるのがコツです。
免除を受けるには、大学院での成績が優秀であることは前提条件。他の奨学生との差別化を図るには、学外での業績をいかにアピールするかにかかっています。
在学中から奨学金の返済に不安がある方は、掲載のハードルが低い学会誌や分野が似ている学会誌などに積極的に論本を提出し、業績を増やすようにしましょう。またその業績を証明するために、学外の活動に参加したことが分かる書類や資料などは必ず保管することをおすすめします。
「死亡又は精神若しくは身体の障害による返還免除」
日本学生支援機構では、奨学金を受け取った本人が、死亡したり精神もしくは身体の障害によって労働能力を焼失した場合などに、返還を免除できる制度を設けています。
条件
死亡又は精神若しくは身体の障害による返還免除の制度を受けるには、奨学金を受け取った人について次の3つの条件が必要です。
- 死亡
- 精神もしくは身体の障害によって労働能力を喪失した場合
- 精神もしくは身体の障害によって労働能力に高度の制限を有しているため奨学金の返還ができなくなった場合
これらの条件に当てはまる人で、「奨学金返還免除願」等の必要書類を提出し、認可されることで、奨学金の一部または全額が返還免除されます。
精神もしくは身体の障がいで免除を希望する場合、障害の程度やどれだけ収入が減少すれば認められるかについての詳細は、公表されていません。またすでに滞納金が発生しているケースでは、まず滞納金の対処が必要です。詳しくは日本学生支援機構のHPをご確認ください。
手続きの流れ
死亡又は精神もしくは身体の障害による返還免除を受けるには、次のような手続きの流れで進みます。
- 日本学生支援機構に免除の相談
- 書類の受け取り
- 書類記入後送付
- 審査
- 可否決定の通知
まずは日本学生支援機構に免除できるかの相談をしてください。その後、保証の種類や奨学金の種類に応じた願出用紙を受け取り、必要事項を記入します。必要書類を添付して、日本学生支援機構に書類を提出。審査の後に可否決定の通知が届きます。
必要書類
上で説明した通り、申請に必要な書類(願出用紙)は、保証の種類(人的保証・機関保証)や奨学金の種類(給付型・貸与型)によって異なります。まずは該当する願出用紙を日本学生支援機構から取り寄せる必要があります。
本人死亡の場合
本人死亡の場合の必要書類は以下の通りです。
- 奨学金返還免除願(相続人・連帯保証人《機関保証加入の場合は不要》の連署)
- 本人死亡の事実が記載した戸籍抄本(コピー不可)
- 個人事項証明書または住民票等の公的証明書(コピー不可)
障害の場合
障害による返還免除を希望する場合は、次のような書類が必要です。
- 奨学金返還免除願
- 返還することができなくなった事情を証明する書類(所得証明書・課税証明書)
- 医師または歯科医師の診断書(日本学生支援機構所定の用紙のみ有効)
所定項目をもれなく記入し、診断書は病院の封筒に封入、密封した状態で日本学生支援機構の担当部署に送付してください。
奨学金の返済に困ったら…利用できる各種制度
障害等で奨学金返済が難しくなったわけでもなければ、大学院で優秀な成績をおさめたケースに該当しない人は、基本的に奨学金の返済免除を受けることができません。しかし、収入の激減や突然の失業などで、奨学金の返済に困る場合もあるでしょう。そのような方には、次のような各種制度を紹介します。
減額返還制度
日本学生支援機構には、奨学金の免除制度以外にも減額返還制度があります。この制度は毎月の返済額を減らすことで、長期的に完済を目指すための制度です。主に災害や傷病、その他経済的理由で返済が難しい人が対象で、延滞金がないことが利用条件です。減額返金制度には、次のような特徴があります。
- 一度の申請につき適用期間は1年
- 最大で15年まで延長が可能
- 毎月返済する金額を減額して期間を延長する
- 総支払額が減額される訳ではない
- この制度を利用するためには、次のような条件があります。
- 月賦返還であること
- 口座振替(リレー口座)加入者であること
- 願出および審査の時点で延滞していないこと
- 年収の目安(会社員等:325万円以下、自営業者等:収入-経費が225万円以下)
減額返還制度の詳しい内容については、日本学生支援機構のHPを参考にしてください。
返還期限猶予制度(一般猶予)
返還期限猶予制度とは、災害や傷病、失業などで経済的に困難になり、奨学金の返済が難しいときに利用できる制度です。経済的に困難な間は、奨学金の返済を一定期間猶予できるという制度で、次のような特徴があります。
- 1度の申請で1年間猶予できる
- 猶予期間は最大で10年
- 猶予期間中は利息・延滞金がかからない
- 年収の目安(会社員:給与所得300万円以下、自営業者:所得200万円以下)
返還期限猶予制度が利用できるのは、次のような理由がある方です。
- 産休・育休が必要
- 入学準備中
- 病気やケガ
- 生活保護受給中
- 失業中
- 災害に遭遇した
- 海外派遣または海外で研究中である
生活保護受給者や産休・育休が必要な人、学校に在学中のひとや海外派遣者などは、その期間中に限り無制限で返還期限を延長できます。
奨学金400万円を滞納したときの対処法については、こちらの記事を参考にしてください。
「奨学金400万円は返済するまで何年かかる?奨学金を延滞した時の流れや対処法、減額方法について調査」
所得連動返還型無利子奨学金の返還期限猶予制度
所得連動返還型無利子奨学金の返還期限猶予制度とは、2012年にスタートした比較的新しい制度。奨学金を借りた本人の収入が、ある一定以上になるまで返還期限を待ってもらえる制度です。減額返還制度との併用が可能ですが、無利子の第一種奨学金を受けている人のみが対象となります。
この制度が利用できる人の収入の条件は、上の一般猶予と同じです。
在学猶予制度
在学猶予制度とは、奨学金の貸与期間終了後に大学や大学院、高等専門学校や専修学校の高等課程又は専門課程に在学する場合に利用できる猶予制度です。在学猶予制度の特徴は、以下の通りです。
- 2020年4月以降の適用期間は最長で10年
- 1年次入学の場合は、その時点から正規の最短終業期までの年数が適用
- 休学等で卒業延期になった場合はその延びる年数も含む
- 基本的に毎年の届出が必要
ただし、聴講生や研究生の場合は、在学猶予の対象外となります。在学猶予制度の申請には「スカラネット・パーソナル」の利用が便利。詳しくは日本学生支援機構のHPを参照してください。
600万円の奨学金の返済プランやいざというときの対処法については、こちらの記事を参考にしましょう。
「600万円の奨学金は返済可能?返済プランの算出方法やいざというときの対処法、債務整理の可否を解説」
地方自治体の支援制度
都道府県や市区町村などの地方自治体の中には、一定の条件を満たせば奨学金の返済を支援してくれるところもあります。その地域への定住や、その地域にある会社に就業することなどの条件があるものの、就職希望地域にこのような支援制度がある場合は、利用を考えてみてもいいでしょう。
例えば岩手県では、「いわて産業人材奨学金返還支援制度」として、県内のものづくり企業等に就職することを条件に、返済総額の半額(支援上限額150万円)を援助してもらえます。認定の要件は、現在学生で正規雇用で8年間継続勤務の見込みがあることなど。都道府県ごとの支援制度のついても、日本学生支援機構のHPを参照してください。
就職先企業の支援制度
就職先企業に、奨学金の支援制度がある可能性も。令和5年4月時点で、日本学生支援機構のHPに掲載依頼があった返還支援制度がある企業団体は173社。建設業や製造業、医療やサービス業など、さまざまな分野の企業が、支援制度を実施することで優秀な人材を確保し、離職率を下げる効果に期待しています。
支援方法は会社の規定範囲内の金額を、毎月の給与に上乗せして支払う方法と、勤続年数が規定に達したときにまとまった金額を一度で支給する方法の2種類があります。就職後の奨学金返済が心配な方は、こうした制度を実施している企業を考慮に入れながら、就職活動するといいでしょう。
病院奨学金制度
病院などの医療機関でも、奨学金の支援制度を実施しています。高齢化社会が継続中の今の日本では、医療や福祉に携わる人材が慢性的に不足しています。そこで看護師や介護職、薬剤師などの医療職に限り、人材を確保する目的で医療機関や福祉施設が返済を援助しています。
この制度を利用するには、一定期間指定の医療機関や福祉施設に勤務することが条件です。勤務を希望する中にこのような奨学金制度がないか調べてみましょう。
ただしこのような職業を条件とした制度では、就職先が狭められてしまうことや、途中で転職や退職をすると一括返済を求められるなどのデメリットも。メリットとデメリットをよく検討したうえで、これらの制度を利用するようにしましょう。
債務整理による減額
奨学金の返済がどうしても難しく、上で紹介した各種制度が利用できない場合は、債務整理を検討しましょう。債務整理は国が認めた借金問題解決方法で、「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3種類があります。
ただこのうち任意整理は、(経過・将来)利息や遅延損害金の減額、支払期間の延長を求める手続きです。奨学金の利息は極端に低く(~0.3%)、返済期間も20年前後と長期のため、任意整理するメリットはありません。従って、実質的には個人再生か自己破産の二択となります。それぞれの方法のメリット、デメリットはこちらです。
債務整理の種類 | 個人再生 | 自己破産 |
---|---|---|
メリット |
|
|
デメリット |
|
|
個人再生と自己破産の違いについてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
「個人再生と自己破産の違いとは?手続き・条件の比較や切り替え方法を教えます!」
奨学金を返済できないときの注意点・ポイント
奨学金を返済できずに困っている方は、こちらで紹介する注意点やポイントに気を付けて、最も適切な対処方法を取りましょう。
延滞すると保証人に請求が移る
奨学金を借りるときに人的保証(保証人・連帯保証人)を付けた方は、奨学金の延滞に注意してください。本人が奨学金を返済できずに延滞した場合、連帯保証人に請求が行きます。連帯保証人も返済できないようなときには、今度は保証人に請求が行く可能性が。親や親せきに保証人になってもらっている方は、大変な迷惑がかかるでしょう。
奨学金の延滞リスクを知る
奨学金を借りるときには、延滞したときのリスクを十分に知る必要があるでしょう。奨学金は保証人が付いていたり、消滅時効までの期間が長いことから、借り逃げすることはほぼ不可能です。その上延滞時の対応は金融機関からのローンなどと同様に、大変厳しいことでも知られています。
奨学金を延滞するリスクは以下の通りです。
- 延滞金が加算される
- 信用情報に事故情報が登録される
- 一括請求される
- 借りた本人や保証人の給与・財産が差し押さえられる
今ちょっと生活が苦しいからといって、連絡なしに延滞するのは大変危険です。延滞2カ月目には高い金利の延滞金が発生します。さらに延滞から3カ月で、個人信用情報機関に登録されている個人信用情報に「延滞」という情報が登録されます。
事故情報の登録は以降5年間消えることがなく、その期間は新たにクレジットカードを作れない、ローンを組めないなどのリスクが生じます。とくに20代~30代にかけては、自身のライフスタイルも大きく変化する時期。結婚やマイホームを購入するときに、ブラックリストに載っていると、さまざまな制限が生じてしまうでしょう。
借金を滞納し、一括返済するように請求された方は、こちらの記事を参考にしてください。
「奨学金を一括返済するよう請求された!無視した場合のリスクと対処法を解説」
個人再生・自己破産では保証人に返済が移る
奨学金も個人再生や自己破産などの債務整理が可能ですが、人的保証を付けている場合は、減免された分はそのまま連帯保証人に一括で請求が行きます。連帯保証人の経済状況や本人との関係にもよるものの、保証人に何かしらの影響が出るのは必至です。
場合によっては保証人も債務整理の検討が必要になる可能性もあるため、奨学金を債務整理する場合には、事前に保証人に報告した方がいいでしょう。
連帯保証人は支払い拒否できるかについては、こちらの記事を参考にしましょう。
「連帯保証人は支払い拒否できる?種類・状況ごとの対処法を知って差し押さえを回避しよう」
弁護士に相談
奨学金の返済で困ったら、なるべく早いタイミングで弁護士に相談することをおすすめします。とくに各種制度を利用しても返済が難しい場合は、借金問題に強い弁護士に相談しましょう。奨学金を延滞したときのリスクや、延滞回避方法などをアドバイスしてもらえます。
奨学金といえども借金の一種です。借りたからには返す必要があります。そして返せない場合は、何かしらの対策が必要です。債務整理をはじめとする借金解決方法を教えてもらったり、実際の手続きを依頼する場合には弁護士が適任。まずは無料相談を利用して、安心して任せられる弁護士を見つけましょう。
奨学金の債務整理を希望する方は、こちらの記事を参考にして信頼できる弁護士を見つけましょう。
「【相談前・相談時】債務整理を依頼する弁護士の選び方を解説!失敗しない6つの注意点も紹介」
まとめ
日本学生支援機構の奨学金では、「特に優れた業績による返還免除」と「死亡又は精神若しくは身体の障害による返還免除」という2種類の免除制度があります。それぞれ対象者や条件等が異なります。該当する可能性のある方は、日本学生支援機構のHPで詳しい手続き方法などを確認してください。
免除制度が利用できず、奨学金の返済が厳しいという方は、減額返還制度や返還期限猶予制度、在学猶予制度などの利用ができないかチェックしてください。そのほかにも地方自治体や就職先企業、病院などで奨学金の補助が受けられる場合も。貸与中から返済が難しそうな場合は、就職先候補に入れてみてはいかがでしょうか。
奨学金といえども借金です。延滞すると様々なリスクが生じます。とくに保証人を付けている場合は、保証人に影響が出ることは避けられません。そのためなるべく早いタイミングで借金問題に強い弁護士に相談するなどして、保証人と一緒に債務整理することを検討しましょう。