- 「任意整理で減額されない理由が知りたい」
- 「任意整理で減額できないときの対処法は?」
任意整理は裁判所を通さず債権者と直接交渉して借金の減額を求める手続き方法ですが、任意整理をしても借金が減額されないことがあります。こちらの記事では任意整理で減額できない原因や理由を詳しく紹介するとともに、減額できないときの対処法も解説。これから任意整理を考えている人や、自分は該当するのではと気になる方はぜひ参考にしましょう。
任意整理をしても減額できないからといって借金を放置するのは厳禁です。なぜ任意整理しても減額できないのかを知り、必要な対策を取れば借金問題を解決できるでしょう。
任意整理で減額されないことはある?
そもそも任意整理で減額できないことはあるのでしょうか。こちらでは任意整理で減額が可能な債権やできない債権について解説します。
任意整理で減額できる債権
任意整理は債権者との話し合いで借金を減額する解決方法の一種で、減額されたものを原則として3年~5年かけて返済していきます。あくまでも任意による借金の整理方法のため、減額できる借金には限りがあることをご存知ですか?任意整理で減額できるのは、こちらの3つです。
- 将来利息
- 任意整理で和解が成立してから借金を完済するまでに発生する予定の利息
- 遅延損害金
- 借金の返済期日に支払いがなかったことによる損害賠償金
- 経過利息
- 最後に返済した日から任意整理の和解が成立した日までに発生する利息
任意整理では基本的に元金部分は減額することはできません。減額できるのはこれから発生する予定の利息と和解が成立した日までに発生した利息、返済期日に遅れたときの遅延損害金です。
過払い金があれば元本も減額可能
任意整理では借金の元金は減額することはできませんが、過払い金があれば元金を相殺することで、元金を減額できたのと同じ状態にできます。過払い金は改正貸金業法が施行される以前の、2007年~2010年の間に消費者金融から「グレーゾーン金利」で借金していた人に該当する可能性があります。
任意整理では手続きの初期段階で、支払った利息を計算し直す「引き直し計算」を行います。ここで過去に返済した分に過払い金があることが分かると、返済した消費者金融から払い過ぎた利息を返還してもらう代わりに、現在返済している借金の元金を減額することで相殺が可能です。
任意整理で減額できない債権
任意整理では減額できない債権があります。例えば税金や社会保険料、損害賠償請求などです。借金を延滞している人の多くは、税金や社会保険料の納付も滞っている人が多くいます。これらは任意整理のみならず他の債務整理を行っても減額はできません。減額できない債権には他にも次のようなものがあります。
- 税金
- 租税公課
- 国民年金・国民健康保険料
- 社会保険料
- 損害賠償請求
- 子どもの養育費
- 罰金や過料
税金や社会保険料などは、役所の担当窓口に相談すると、無理のない範囲で分割払いができるようになっています。なるべく早い段階で相談することをおすすめします。
減額に応じない業者はごく少数
任意整理で減額に全く応じない業者はごく少数ですがいます。貸金業者の中には会社の方針によって、「任意整理には応じない」と決まっている業者がいるからです。このような業者は任意整理の申し出には全く応じてくれません。また特定の弁護士事務所や司法書士事務所からの任意整理には対応しないと決めている業者もいます。
逆に言うと貸金業者の種類に関わらず、ほとんどの業者は減額に応じてくれることになります。「もし自分が借りている業者が減額に応じてくれなかったらどうしよう」と心配する必要はそれほどないでしょう。
任意整理と債務整理の違いについては、こちらの記事を参考にしてください。
「任意整理と債務整理の違いは何?メリット・デメリット、任意整理に向いてる人を解説」
減額されない原因とは?
任意整理に応じてくれない業者はほとんどいないのですが、債権者の事情や債務者の背景によっては減額されないことがあります。こちらでは任意整理で減額されない原因について紹介していきます。
業者が和解に応じない
任意整理は業者に借金の減額内容を記した和解案を提示して減額を申し出る手続きです。こちらからお願いするという要素が強い手続きのため、業者が和解に応じてくれないと借金を減額できません。あくまで任意の手続きのため法的な拘束力はなく、交渉の場につくかどうかは業者の判断にゆだねられるためです。
業者側では交渉に応じる「条件」を設けている場合があります。その条件に当てはまらない場合は和解に応じない可能性が。中には過払い金請求によって多額の負債を抱えて、経営状況が悪化した貸金業者もいます。そうした事情から任意整理に応じられない場合があることを覚えておきましょう。
過払い金が発生しない
減額の範囲を元金にのみ限定すると、過払い金が発生していないと減額できないことになります。上で説明した通り、グレーゾーン金利でお金を借りていた人は過払い金が発生し、その分の返還を今の借金の元金を減額することで相殺できます。
しかしグレーゾーン金利が撤廃されてから消費者金融からお金を借りた人や、グレーゾーン金利を下回る金利でお金を借りていた人は、そもそも過払い金が発生しないため元金の減額はできません。
弁護士への依頼を断られた
通常任意整理は弁護士に依頼して手続きを進めますが、弁護士から依頼を断られてしまうと減額ができなくなることも。例えば次のようなケースで弁護士への依頼を断られる可能性があります。
- 相談内容に虚偽がある
- 着手金をいつまでも支払わない
- 電話に出ないなど連絡が取れない
- 明らかに無理な要望を出してくる
このように依頼主の態度が悪かったり、弁護士との信頼関係を築けないと判断されると任意整理の依頼を断られる可能性があります。弁護士が手続きを進めてくれないと任意整理が失敗するリスクが生じます。
任意整理中に弁護士に辞退されたときの対処法は、こちらの記事を参考にしてください。
「弁護士に任意整理中に辞任されたら?辞任の理由・対処法を知ってスムーズな手続きを」
任意整理で減額が難しい理由
債権者側の方針や債務者側の事情によっては、任意整理をしても減額が難しい場合があります。こちらで紹介する理由があると、和解の条件が厳しくなったり交渉が難航することが予想されます。
債権者側の理由
任意整理で減額が難しい理由には、債権者側の事情が隠れていることがあります。
和解条件が厳しい
債権者側の和解条件が厳しいと、減額が難しくなります。例えば相手となる業者の経営状態が悪いときは「将来利息を減額するのはできない。利息付きでないと和解できない」などと条件を付けてくる場合があります。このようなケースでは交渉が決裂する可能性が高く減額が難しくなります。
和解せず引き続き交渉を続けることで利息の減額で和解できることもありますが、こちらはケースバイケースとなります。
早期の和解を求めてくる
早期の和解を求めてくる業者も、任意整理で減額が難しいでしょう。任意整理に応じるものの手続き開始後3カ月を経過しても解決しないと、訴訟に踏み切る業者がいるからです。早期の和解を求めてくることは一部の貸金業者に見られ、任意整理の交渉が難航したりすると減額できずに訴訟を起こされることも。
債務整理に詳しい弁護士なら、こうした貸金業者の対応の傾向も把握しているはずなので、こちらのパターンの業者には任意整理の開始から時間をかけずに早期に和解に持っていければ、借金を減額できるでしょう。
担保を保有している
債権者が担保を保有していると任意整理に応じてくれない可能性が高いです。自動車ローンや住宅ローンを組む場合、ローンが完済されるまでは車や住宅そのものが抵当権や所有権留保という形でローンに担保権が設定されており、ローンの返済が滞ったときは担保を没収して売却したり競売にかけて全額を回収しようとします。
つまり現金化できる担保を持っていれば、わざわざ任意整理に応じる必要がなくなるため、減額するのは難しいでしょう。
給与等を差し押さえている
すでに給与を差し押さえられている場合も、任意整理で減額が難しくなります。借金の返済を求め訴訟を起こし、判決が出て強制執行をしているということで、毎月定期的に入ってくる給料を差し押えられれば全額回収できるのも時間の問題で、わざわざ任意整理に応じる意味がないからです。
金融機関が任意整理に応じる一つの理由として、訴訟を起こして強制執行の手続きをするのが面倒だということがあります。その手間を考えれば任意整理に応じた方が、減額はされるものの回収できると考えているため、すでに給料を差し押さえられている場合は任意整理できません。
債務者側の理由
借金をしている債務者側の理由から、任意整理で減額が難しくなる場合があります。
返済期間がない・短い
債務者が貸金業者からお金を借りて一度も返済していない場合や、返済していてもその期間が短い場合は、任意整理できないと考えた方が良さそうです。というのも業者の立場からすると「最初から返済するつもりがなかったのでは?」とみなされ、話し合いに応じてくれる可能性は少ないでしょう。
同様に取引を開始してから半年ほどしか返済をしていないという場合も、任意整理に応じてくれないか、もしくはかなり厳しい条件になることは覚悟しましょう。業者からするとほぼ無償で貸し付けたも同然で、貸金業者に経済的利益はほとんどありません。返済期間が極端に少ない借金を任意整理したいなら、まずは取引実績を作ることから始める必要があります。
年収等を偽って借りた
借り入れを申し込むときに審査を通りやすくするために年収を偽って多く申告したり、第三者の借金を「名義貸し」で借り入れした場合は、任意整理に応じてくれない可能性が高いです。借入審査の年収欄は、貸金業者が返済能力を判断するとても重要な情報です。この情報に誤りがあると業者は適正に判断できません。詐欺行為と言われても仕方のない行為だということを覚えておきましょう。
また借り入れの審査が通らない友達のために、あなたの名前や勤務先の情報で借り入れした場合は「名義貸し」とみなされ、こちらも詐欺行為に該当する場合も。いずれのケースでも不法行為と思われても仕方のない極めて不誠実な行為であり、このような行為が発覚したときは任意整理に応じてくれないか、応じても厳しい条件になることを覚悟しましょう。
返済能力がない
そもそも債務者に返済能力がない場合も、任意整理で和解することは難しいでしょう。任意整理は利息など減額された借金を原則3年、最長でも5年かけて返済する手続きです。少なくとも元金分は完済できる支払い能力がないと、貸金業者は取りはぐれてしまう可能性が高まるため、減額交渉に応じてくれないという訳です。
とくに無職や無収入の債務者や、収入があっても期間内に返済が見込めないような場合は任意整理の和解ができないでしょう。逆にアルバイトやパートでも、毎月安定した収入がある方は任意整理が可能です。
ローン返済中の財産がある
ローン返済中の家や車を持っていると、任意整理が難しい可能性が高いでしょう。貸金業者からすれば、住宅ローンや車のローンを支払えるだけの余裕があるなら、任意整理せず通常の借金返済に充ててほしいと考えるからです。そのためローンが残っている状態で任意整理する場合は、家や車を手放さなければならないこともあります。
任意整理が2回目
任意整理が2回目の人は、和解交渉が不利になったり和解できない可能性があります。任意整理には回数に制限がないため、2回目の手続きも可能です。ただ任意整理が2回目で、1回目の整理後の返済が滞った経験がある方は、また返済されないのではとみなされて2回目の任意整理で和解できないことも。
1度目の任意整理で和解契約通り返済できなかったという方は、2回目に任意整理する場合に注意しましょう。
手続きを弁護士に依頼していない
任意整理の手続きを弁護士に依頼していない場合も、交渉が難航する可能性があります。任意整理は債権者と直接交渉して減額をお願いする手続きです。法律に関する知識がなく交渉事に慣れていない個人が債権者と話し合いしようと思っても、債権者が交渉のテーブルにつかない可能性があるからです。
確かに弁護士に依頼せず自分一人で手続きすると、かかる費用は実費だけなので安く済みます。しかし素人が相手の交渉だと、和解条件を厳しくして来たり、そもそも交渉の場に来ないことも。任意整理しても減額できない恐れがあるので、なるべく専門家に手続きを依頼するようにしましょう。
減額できないまま放置しているとどうなる?
任意整理の手続き途中で減額できないと分かり、返済もせずそのまま借金を放置するとどうなるのでしょうか?
一括請求される
借金を返済せず任意整理手続きも減額できないからと放置すると、債権者から一括請求を求める通知が届きます。一括請求とは「借金の残りと発生した遅延損害金を合計した金額を一括で支払うこと」という内容の通知です。今までは契約で毎月期日までに支払えば分割払いで返済できていたのですが、借金を滞納していたことが原因で分割で返済できるという権利「期限の利益」が喪失したため。
業者にもよりますが一括請求が手元に届くのは、借金を滞納してから2カ月を超えた時点です。また任意整理後の返済でも2カ月以上滞納すると一括請求されます。この場合は債権者ともう一度和解契約を結び直すか、任意整理していない他の業者も任意整理するしかなくなります。まずは手続きを依頼した弁護士に相談して、どのような方法があるか確認しましょう。
一括請求されたときの対処法は、こちらの記事を参考にしましょう。
「クレジットカード会社からの一括請求を無視するとどうなる?主な流れと解決方法を紹介!」
裁判所から支払督促が届く
一括請求やその後に送られてくる「差押予告通知書」を無視したままでいると、債権者は貸金請求訴訟を裁判所に申し立てます。それをもとに裁判所は債務者に「支払督促」という書面で残金の支払いを命じます。支払督促は「特別送達」という郵便で届くので、必ず中身を確認するようにしましょう。
支払督促には借金の内容などが記されています。内容に不服がある場合は同封の「異議申立書」を裁判所へ返送してください。異議がない場合はそのまま訴訟が進み、強制執行を受けてしまいます。
強制執行により財産が差し押さえられる
債権者からの「差押予告通知書」が届いてから、早ければ1~2カ月で強制執行が実施され給与をはじめとする財産を差し押さえられます。主に差し押さえられる財産は次の通りです。
- 給与・ボーナス・退職金
- 預貯金
- 車
- 不動産
- その他高価な家財道具
給与は生活に必要なお金ということで、手取りが44万円以下の場合は1/4が、44万円以上の場合は33万円を差し引いた残りの金額が差し押さえ対象になります。また預貯金は全額差し押さえの対象となるため、振り込まれた給与をそのままにしておくと全て差し押さえられてしまうことも。
強制執行に至る前の段階で和解できる見込みがないのであれば、早めに別の手段を考える必要があります。
給料の差し押さえまでの流れや回避方法については、こちらの記事を参考にしましょう。
「給料差し押さえは無視できる?差し押さえまでの流れや期間、回避方法について解説!」
任意整理で減額されないときの対処法
任意整理で減額されなかった場合、次のような対処法を取ると借金問題を解決できる可能性があります。
安定した収入を確保する
収入がない人や無職の人は安定した収入を確保するようにしましょう。任意整理するには、整理後の返済を継続できる支払い能力が求められます。まずは定期的なアルバイトから始めて、段階を踏んで派遣社員や正社員になる方法を探すことをおすすめします。これは債務整理後の生活を安定させるうえでも重要で、借金を再び繰り返さないためにも必要なことです。
任意整理ができない業者を省く
任意整理できない業者を除いて手続きするのも一つの方法です。任意整理は債権者ごとに個別で行う手続きのため、特定の債権者が交渉に応じなかったり、厳しい条件を出してきたときは、その業者だけ整理対象から外すことが可能です。ローン返済中の家を手放したくないときは任意整理の対象から外し、引き続き返済するようにすれば家を手放さなくても済む場合があります。
他の債務整理を検討
任意整理で減額が難しかったり、思うような減額ができなかったときは、他の債務整理方法を検討してみては?債務整理方法には他に個人再生と自己破産という方法があります。個人再生は民事再生法、自己破産は破産法という法律によって手続きを行っていきます。どちらも裁判所に申し立てる手続きで、裁判所の決定が出れば法的強制力を持って借金を減額・免責できます。
それぞれのメリット・デメリットはこちらです。
債務整理方法 | メリット | デメリット |
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個人再生 |
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自己破産 |
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個人再生は任意整理と比較して借金を大幅に減額できます。ただし100万円以下の借金は減額されず、住宅ローンを除いた借金が5000万円以下の人が対象です。また手続き後も返済が残るので安定した収入がなければ手続きできません。
自己破産は借金を免責(ゼロに)できる手続きですが、99万円以上の現金や20万円以上の財産は債権者へ分配するために手放す必要があります。また借金の理由によっては免責が許可されない「免責不許可事由」があり、免責許可決定の通知が出るまでは一部の資格や職業に制限がかかるため、該当する職業の人は注意が必要です。
全てに共通するのですが、債務整理すると信用情報機関にある個人信用情報に債務整理したことが「事故情報」として掲載されます。情報が消える5年~10年間は新たなクレジットカードが作れなかったりローン申し込みができません。個人再生と自己破産では国の広報誌「官報」に住所や氏名などの個人情報が掲載されます。
個人再生と自己破産の違いやどちらが適しているかについては、こちらの記事を参考にしてください。
「個人再生と自己破産の違いとは?手続き・条件の比較や切り替え方法を教えます!」
弁護士に依頼する
任意整理を考えている場合は、弁護士に相談したり依頼するのがおすすめです。弁護士から受任通知が債権者の元に送付されると、一切の催促や取り立てがストップできます。また利息の引き直し計算や債権者との交渉も全て任せることができ、有利な条件で任意整理ができます。
また万が一任意整理で減額できなかったときに他の手段を講じる場合も、速やかに手続きに移行できます。弁護士を探す場合は、借金問題や債務整理に詳しい弁護士がおすすめ。まずはネットなどで近くに債務整理に詳しい弁護士がいないか検索し、無料相談などを利用して任意整理が可能か相談しましょう。
まとめ
任意整理で減額できない原因には貸金業者の方針がありますが、交渉に応じない業者はごく少数です。ただ返済期間が極端に短かったりすでに給与を差し押さえている場合、担保を保有しているなど債権者側に理由がある場合は減額が難しくなります。同様に年収を偽って申し込みしたり、2回目の任意整理の場合も条件が厳しくなることがあるでしょう。
任意整理で減額できないまま放置すると、一括請求や支払督促が届き裁判所に訴えられてしまうと、最終的には財産を差し押さえられてしまいます。またそもそも任意整理でも免責できない税金や罰金などには注意が必要。こちらも支払いをしないでおくと強制執行される可能性があるので、優先的に支払うか分割払いで対応してもらえるよう、早めに窓口に相談することをおすすめします。
任意整理で減額されないときは、安定した収入を確保したり、減額できない業者を整理対象から外すという方法があります。また個人再生や自己破産など、他の債務整理方法もで借金を減額もしくは免責できます。自分に適した債務整理方法が分からないという方は、借金問題に詳しい弁護士に相談してみては?依頼できると債権者からの取り立てが収まり、手続きを代行してもらえます。