- 「債務整理したら生活はどうなってしまうの?」
- 「債務整理後に後悔しないためにどうしたらいいか知りたい」
債務整理は借金を減免できる手続きですが、借金を解決できるというメリットだけでなくデメリットもあります。債務整理を検討中の方の中には、債務整理中に自分の生活が不便になったり、手続き後に大きな影響があるのではないかと、躊躇している人もいるかもしれません。
こちらの記事では債務整理したらどうなるかという点にスポットを当てて、債務整理のデメリットや生活に与える影響について詳しく解説。債務整理後に「こんなつもりじゃなかった…」と後悔しないためには、専門家の意見を聞きながら、自分にとって最良な借金解決方法を選びましょう。
債務整理したらどうなる?
まずは「債務整理」とはどのような手続きなのかについて、債務整理の種類とともに解説していきます。
債務整理とは法律で認める借金解決方法
テレビやラジオなどで一度は耳にしたことのある「債務整理」とは、法律で認められているれっきとした借金の解決方法です。「国が借金を解決してくれるなんて本当?」とうたがった見方をする人がいるかもしれません。
しかし日本国憲法で、国民は「健康で文化的な最低限度の生活」を送る権利があると定められていて、借金で失敗した人にも同様の権利があるとしています。やむを得ない事情による借金で困っていたり、借金の返済がきつ過ぎて生活できないという方のために、国では借金を減免できる救済制度を準備。その制度が、民事再生法や破産法などの法律に基づく債務整理という訳です。
債務整理の種類は3つ
債務整理は主に「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3種類があります。それぞれの手続きの内容や借金の減免割合は以下の通りです。
任意整理
任意整理とは債権者(貸金業者などお金を貸した側)と直接交渉することで、借金を減額したり返済期間を延長したりできる手続きのこと。任意整理でできることは次のような内容です。
- 経過利息の減額
- 滞納中の借金の利息をカット
- 将来利息の減額
- 任意整理後に返済していく借金の利息のカット
- 遅延損害金の減額
- 滞納したときに発生していた損害賠償金のカット
- 返済期間の延長
- 原則3年、最長5年で完済を目指す
裁判所を通さずに直接交渉するので手続きにかかる費用や時間を抑えられ、日常生活への影響が最も少なくて済みます。ただし返済能力がないなどで、債権者が返済プランに同意しないと減額できません。また元金以上の減額が不可能なため、多額の借金がある人には向きません。
任意整理と債務整理の違い、任意整理に向いている人についてはこちらの記事を参考にしましょう。
任意整理と債務整理の違いは何?メリット・デメリット、任意整理に向いている人を解説
個人再生
個人再生は裁判所に申し立てて、借金の大幅減額を認めてもらう手続きです。「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の二種類がありますが、いずれも5000万円以下の借金に適用可能。借金の総額に応じて、次のように最低弁済額が決められています。
借金(債務)総額 | 最低弁済額 |
---|---|
100万円未満 | 借金総額全部(減額なし) |
100万円以上500万円未満 | 100万円 |
500万円以上1,500万円未満 | 借金総額の5分の1 |
1,500万円以上3,000万円未満 | 300万円 |
3,000万円以上5,000万円未満 | 借金総額の10分の1 |
最低弁済額として残った借金は任意整理同様、3年から5年かけて返済していきます。手続き後は100万円~500万円の借金を返済しなければならないため、申立人の支払い能力の有無が重要に。個人再生にはローン返済中の自宅を残せる「マイホーム特則」があるのも特徴です。
個人再生のメリット・デメリットや利用条件について詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。
個人再生のメリット・デメリットを徹底分析!注意点・利用条件・他の債務整理との違いは?
自己破産
自己破産は、裁判所に借金の支払が不可能であることを申し立てて、借金の支払い義務がすべて免除(免責)できる手続きです。債務整理の中では最も強力な借金解決方法で、財産がない人が利用できる「同時廃止」と、破産管財人が付く「管財事件(少額管財)」の二種類があります。
借金をゼロにできるということで、債務者にとってはとても良い手続きに思えます。しかしその背後には債権を回収できない債権者がいるということで、他の債務整理にはない厳しい制限や条件が課せられています。また一定以上の財産をすべて処分する必要があるのも、3種類の中では自己破産だけです。
自己破産で発生する状況別のデメリットは、こちらの記事を参考にしましょう。
自己破産のデメリットを状況別に解説!誤解や嘘を解決して最適な選択へ
債務整理後に起こる影響について
借金を減額・免責できる債務整理ですが、手続き後には生活に少なくない影響を及ぼします。こちらでは債務整理全般についてのデメリットや影響について見ていきます。
信用情報への登録
全ての債務整理方法に共通するデメリットとして、信用情報機関にあるあなたの個人信用情報に債務整理したことが登録されます。個人信用情報とはクレジットカードやローン申し込み時の審査の参考にされる情報で、個人と金融機関との取引履歴をまとめたもの。
信用情報機関は加盟している金融機関の業種ごとに3機関あり、登録されている内容や登録機関が異なります。
信用情報機関名 | 加盟金融機関 | 任意整理 | 個人再生 | 自己破産 |
---|---|---|---|---|
株式会社シー・アイ・シー(CIC) | クレジットカード会社 信販会社 |
登録されない(滞納や代位弁済があると5年程度登録) | 5年 | 5年 |
株式会社日本信用情報機構(JICC) | 消費者金融 街金 |
5年 | 5年 | 5年 |
全国銀行個人情報センター(KSC) | 銀行 信用金庫 労働金庫 信用保証協会 農協など |
登録されない(滞納や代位弁済があると5年程度登録) | 10年 | 10年 |
過去の延滞や債務整理が事故情報として登録されていると、「また延滞(債務整理)される可能性があるので申し込みは断ろう」という判断の材料になります。この状態がいわゆる「ブラックリストに載る」ということです。それぞれの債務整理方法ではブラックリストに載るタイミングが、次のように変わってきます。
債務整理の種類 | ブラックリストに載るタイミング |
---|---|
任意整理 | 受任通知を送付した日 |
個人再生 | 再生手続き開始決定日 |
自己破産 | 免責許可確定日 |
クレジットカードが持てなくなる
個人信用情報に債務整理の情報が登録されると、5年~10年の間はクレジットカードが持てなくなります。手続き後に新規で作成しようと思っても、カードを発行するのが「不適当」と判断されて審査に通らなくなります。また現在使用中のクレジットカードも利用できなくなります。
タイミングはカード会社によってまちまちですが、早いと弁護士が債権者に送付する「受任通知」を受け取った直後に利用停止になる可能性も。家族が利用している家族カードも、あなたがカードの名義になっていれば、強制的に解約されてしまうでしょう。
任意整理でカード会社を整理対象から外せば、しばらくの期間は使えます。しかしカードの有効期限が来て切り替えになるタイミングで信用情報をチェックされるので、以降は新しいカードが発行されなくなります。
ローンやキャッシングを利用できない
債務整理後は、ローンやキャッシングも利用できなくなります。クレジットカードの新規作成と同様に審査に通らなくなるため、5年~10年の間はローン契約や借り入れができません。そのため住宅ローンや自動車ローンの利用を考えている方は、債務整理の時期を検討した方がいいでしょう。
「ローンやキャッシングが利用できないのは不安」という人がいるかもしれませんが、決してデメリットばかりではありません。債務整理する方は、借金するのが当たり前になっている可能性があります。それを正すためにも、自分の収入に応じた範囲での生活を身につけていくいいチャンスと考えましょう。
分割購入ができない
ブラックリストに登録されている期間は、分割購入や割賦払いができなくなります。分割や割賦払いも借金の一種だからです。いつも携帯電話を分割で購入されている方や、本体の買い替えを検討している方は注意が必要です。
とはいえ機種本体を一括で購入すれば、今まで通りに携帯電話は使用できます。その場合は型落ちの機種を選んだり、中古のスマホを格安で手に入れるなどすれば、それほどお金をかけなくても携帯電話を新しくできます。
賃貸住宅を契約できない可能性
賃貸住宅を契約できない可能性があるのも、ブラックリストに登録される影響です。賃貸住宅を契約するときに、家賃保証会社との契約も義務になっている場合があるため。その家賃保証会社が信販会社の系列会社だったりすると、入居申し込み時に信用情報を確認される可能性があります。
とはいえ保証人を付ければ問題ないという物件も多く、信販会社系の保証会社でなければ信用情報を確認されることもありません。不動産会社に「保証会社は必須か」などを確認し、「信販会社系の保証会社でない」物件を紹介してもらうようにしましょう。
保証人になれない
債務整理後にブラックリストに登録されている間は、保証人や連帯保証人になれません。保証人は契約者が借金の支払いをしなくなった場合に、代わりに返済をしなければいけない義務を負う人です。債務整理した人が一定期間保証人になれないのは、保証人としての義務を負うことができないと判断されるためです。
そのため、借金の保証人はもちろん子どもの奨学金の保証人にもなれないので注意が必要です。奨学金を借りる場合は、親や親族が保証人になる「人的保証」と保証期間が保証人代わりになる「機関保証」の二種類があります。代わりになってくれる人がいる場合は配偶者を保証人にしたり、いない場合でも機関保証を利用すれば問題ありません。
社内ブラックへの登録
債務整理が事故情報として登録されると、社内ブラックにも情報が残ります。社内ブラックとは、金融機関が独自に管理している個人情報のこと。信用情報機関の事故情報は、5年や10年という一定期間が来ると抹消されますが、社内ブラックはそのような規定がないので半永久的に残ります。
したがって過去に滞納した貸金業者や債務整理対象となった銀行などでは、事故情報の登録機関が終わっても審査に通らない可能性が。またグループ会社内で社内ブラックの情報を共有している場合があるので、登録期間明けにローンを組むときは、以前利用した金融機関のグループでないかよく確認が必要です。
住宅ローンへの影響
前述の通り、債務整理後にローンを組んで住宅を購入する場合は、一定期間が経たないとローンの審査に通りません。ただし現在住宅ローンを返済中の方は、債務整理の方法によって影響が異なります。
債務整理方法 | 影響 |
---|---|
任意整理 | 整理対象の債権者を選べるので、住宅ローンを除けば今まで通り返済を続けながら家に住み続けていられる |
個人再生 | 条件に該当し「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」を利用できれば、住宅を手放さずに済む |
自己破産 | ローン返済中の住宅は抵当権が設定されているので、自己破産した時点で金融機関から没収されて競売にかけられるため、住み続けていられない |
個人再生で利用できる、住宅ローン特則の条件は以下の通りです。
- 本人が所有する住宅であること
- 住宅購入のためのローンであること
- 住宅ローン以外の抵当権が付いていないこと
- 債権者一覧表に記載してあること
- 滞納がないまたは、代位弁済から6カ月以内であること
個人再生で住宅ローンがどうなるか気になる方は、こちらの記事を参考にしましょう。
個人再生で住宅ローンはどうなる?特則適用の条件・巻き戻し・手続き後のローンについて
自動車ローンへの影響
債務整理の種類によって、自動車ローンへの影響も次のように変わってきます。
債務整理方法 | 影響 |
---|---|
任意整理 | 自動車ローンを除いて手続きすれば、没収されずに済む |
個人再生 | ローン会社やカーディーラーに「所有権留保」が付いていると車が没収される ローン会社と「別除権協定」を結んで裁判所に認められれば没収されずに済む |
自己破産 | ローン会社やカーディーラーに「所有権留保」が付いていると車が没収される ローン返済が終わっている車でも、評価額が20万円以上とみなされれば売却されて債権者に分配される |
個人再生で問題になる「所有権留保」とは、分割払いで車を購入する場合に、支払の残金が残っている間は車の所有権は売主に残るということ。また個人再生では、債権者に対してローン残金を支払うことと引き換えに車を没収しないという合意「別除権協定」ができれば、ローン返済中でも車を手放さずにすみます。
生命保険や学資保険への影響
解約返戻金のある生命保険や学資保険も、債務整理による影響があります。というのも解約返戻金はお金が受け取ることができる権利(債権)とみなされるため。したがって解約返戻金のない掛け捨ての医療保険や損害保険には影響がありません。
保険への影響については、債務整理の方法によって以下のように異なります。
債務整理方法 | 影響 |
---|---|
任意整理 | 保険を解約したくない場合は、整理対象から外せる |
個人再生 | 解約返礼金の金額に応じて借金の返済額が変わるが、保険の解約を強制されることはない |
自己破産 | 20万円を超える解約返礼金がある場合は、解約して現金化し、債権者に分配される 2解約返戻金が20万円以下の保険や、掛け捨ての保険は解約の必要なし |
個人再生の場合、解約返戻金を個人の資産として計上する必要があり、それによって最低弁済額が高くなる可能性がありますが、基本的に解約の必要はありません。一方自己破産の場合は解約返戻金が20万円を超えるかどうかで解約の必要性が変わってきます。
就職・仕事への影響
債務整理による就職や仕事への影響も気になるところですが、直接影響することは限定的です。そもそも債務整理したことが就職先や勤務先に知られることはほとんどないからです。そして債務整理したことがバレても、例外を除きそれを理由にして解雇することは法律で禁止されています。
たとえ公務員であっても、自己破産したからといって懲戒解雇となることは原則としてありません。会社に債務整理のことを知られる可能性があるとしたら、次のようなケースです。
- 債務整理によって給与振込口座が凍結された
- 債務整理後の返済が滞納して会社に督促が来た
- 会社からの借り入れを債務整理の対象にした
- 自己破産で資格や職業に制限を受けた
- 勤務先が官報を定期的にチェックする業種
会社からの借り入れを債務整理すると、弁護士や裁判所から通知が届いてバレます。自己破産では手続き期間中に特定の資格や職業が制限を受けるため、対象の仕事に就けなくなります。また個人再生や自己破産すると、トータルで2~3回、国の機関誌「官報」に住所氏名が掲載されるので、そこからバレる可能性が。
官報は金融機関や不動産業といった特定の業種の人が日常的にチェックするくらいで、一般の人の目に触れる機会が少ないでしょう。
結婚への影響
債務整理したからといって戸籍や住民票に記載されることはないので、結婚の手続きをきっかけに相手にバレる心配はありません。ただし事故情報が掲載されている期間は、ローンやクレジットカードの利用ができなくなるので、そこからバレる可能性はあるでしょう。
そのため結婚後の生活には不便が生じる場合があることをよく認識し、結婚する相手には誠実に対応するようにしてください。また本人は気にならなくても、親に結婚を反対される可能性が。結婚を許してほしい場合は、現在は借金をしない生活を送っているということを説明し、真摯に反省した姿勢を示す必要があるでしょう。
家族への影響
債務整理したことは、家族にバレる可能性があります。任意整理は弁護士に依頼すれば、同居家族に知られずに手続きすることもできますが、個人再生や自己破産では裁判所を介する手続きのため、家族にバレる場合があるでしょう。また裁判所からの書類でバレる可能性があることにも気を付けましょう。
配偶者が借金の保証人になっていたり、家族の給与明細や家計簿を準備するような場面でも債務整理のことが分かってしまいます。家族が保証人になっていると、債務整理した本人の代わりに家族に請求が来ます。そして住宅やローンで購入した車があると、手続きの途中で没収されて家族に少なくない影響が及びます。
債務整理するとクレジットカードが持てなかったり保証人になれないなどの不都合が生じるため、同居家族にはなるべく早い段階で債務整理のことを伝え、一緒に対策を考えたり不安な点があるときは弁護士に相談に行くなどの対処が必要でしょう。
自己破産で家族にどうしてもバレたくないという方はこちらの記事を参考にして対処方法を実践してください。
自己破産すると家族にバレる?バレる8つのケースと対処法を紹介!
債務整理後の返済ができなくなったときの影響
債務整理後に返済ができなかったときの影響は、任意整理と個人再生とで異なります。任意整理後に返済ができないケースでは、1~2カ月程度ならすぐに滞納分を返済すれば特に問題になることはありません。しかし2回以上滞納すると、債権者から一括返済を求められる可能性があります。債権者と再和解しない限りは、分割払いに戻すことはできません。
また個人再生では、再生計画案に基づいた返済ができないと、総債権の1/10以上を持つ債権者に再生計画の取り消しを申し立てられます。裁判所が取り消しを認めると、せっかく減額された借金が元の残高に戻ってしまい、その残高に基づいた返済を再開する必要が。
再生計画の取り消しの申立ができない債権者からは訴訟を起こされる可能性があります。裁判で敗訴してしまうと、債権名義がとられて給料や不動産などの財産が強制的に差し押さえられるのが原則です。債務整理後の返済を滞納するとこのような事態が起きる可能性があるため、万が一遅れそうなときは速やかに手続きした弁護士に相談しましょう。
2回目の任意整理を考えている場合は、こちらの記事を参考にしてください。
2回目の任意整理はできる?失敗しないための注意点、成功のコツを解説
債務整理の種類ごとの影響・起こること
債務整理の種類ごとに起こることや影響が変わってきます。
任意整理したらどうなる?
利息や遅延損害金をカットできる任意整理ですが、手続き前後で次のようなことが発生します。
債権者が合意しないと減額できない
任意整理はあくまでも「任意」の手続きのため、債権者が合意しないと借金を減額できません。元々任意整理に応じない方針の貸金業者であったり、金融機関の経営が苦しいような状況のときです。また債務者側に次のような原因があって、減額できない可能性があります。
- お金を借りて1度も返済していない
- 収入がない・収入が不安定
- 抵当権が付いている借金
借金してから1度も返済していない場合は、元々返すつもりがなくて借金したのでは?と疑われて応じてくれないでしょう。収入が不安定もしくは無収入の場合も、任意整理後の返済が不可能だとみなされて合意に至りません。また抵当権が設定されている借金は、引き上げて売却すれば未収金は回収できるため、わざわざ任意整理に応じる必要がないという訳です。
任意整理で減額できない原因を詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしましょう。
任意整理で減額されない原因と理由|減額できないときの対処法とは?
元金以上の減額は不可
任意整理は基本的に利息や遅延損害金をカットする手続きのため、元金以上の減額はできません。したがって5年で返済可能と判断する以上の元金の場合は、任意整理以外の方法を検討した方がいいでしょう。
手続しても返済が残る
任意整理は、手続きしても返済すべき借金が残ります。そのため他の債務整理方法と比べると、借金の減額効果が薄いというデメリットがあります。任意整理は手続きの性質上、日常生活への影響が少ないですが、事故情報として登録されるため、慎重に判断すべきでしょう。
個人再生したらどうなる?
個人再生すると、どのような影響が生じるのでしょうか。
保証人に債務が移る
保証人が付いている借金を個人再生すると、その保証人に影響がでます。個人再生は任意整理のように、整理する対象の借金を選べないためです。保証人や連帯保証人がいる借金がある場合は、減額された分を保証人が肩代わりする必要があります。
保証人に返済義務が移ると一括請求されるのが基本なので、一括で支払えないときは、保証人自身も債務整理を検討すべきでしょう。ただしこの場合、保証人が肩代わりした分を債務者本人に請求することはできません。個人再生では裁判所の判断で借金が減額されたためです。
官報に公告される
個人再生すると、「再生手続開始決定」「書面による決議に付する旨の決定」「再生計画許可決定」のタイミングで3回、官報に公告されます。個人再生は民事再生法という法律に基づいた事項によるもので、債権者に異議申し立てをする機会を与えるために官報に載ります。
官報はほぼ毎日発行され、各都道府県に1か所ある官報販売所で購入が可能なほか、インターネット版官報もあります。見ようと思えば誰でも閲覧でき、一度掲載された内容は削除されません。とはいえ官報を日常的にチェックしている人は限られた業種のため、官報がきっかけで会社や周囲に知られる可能性は低いでしょう。
ローン返済中の財産は没収される
個人再生すると、ローン返済中の財産は没収されてしまいます。住宅ローンや自動車ローンの項目で説明した通り、ローン支払途中の住宅には「抵当権」が、車には「所有権」という担保権が設定されているため。担保権が設定されていると、ローンが回収できないと分かった債権者が家や車を売却することで回収を図ります。
自己破産したらどうなる?
自己破産すると、破産者にはどのような影響やデメリットがあるのでしょうか。
高額な財産は没収される
自己破産では法律で認められた財産以外は処分されて、現金に換えたのちに債権者に分配されます。不動産はもちろんですが、評価額20万円以上の車なども処分の対象になるため、他の債務整理よりも生活への影響が大きくなります。ちなみに、法律で認められた処分しなくてもよい財産は次の通りです。
- 破産手続開始決定後に取得した財産
- 99万円以下の現金
- 差押が法律で禁止されている財産(家電・家具・寝具などの生活必需品、給料の3/4・年金・保険など)
- 自由財産の拡張が認められた財産(20万円以下の預貯金や車、電話加入権や敷金債権など)
- 破産管財人によって放棄された財産(保管・処分・売却に費用がかかる財産)
自由財産の拡張とは、本来なら処分の対象となる財産でも、最低限の生活のために必要だと判断されれば処分しなくてもよい財産のこと。この運用の範囲は手続きする裁判所によって異なるので、あらかじめどのような財産が該当するのか確認が必要です。
自己破産したときの財産について詳しく知りたい場合は、こちらの記事を参考にしてください。
自己破産すると財産はどうなる?処分される・されない財産と財産隠しについて
保証人に債務が移る
個人再生同様、自己破産すると保証人に借金返済の義務が移ります。自己破産は借金を免責できるので、保証人は残債全額を負担する必要が出てきます。当然保証人には自己破産したことがバレ、保証人に多大な影響が及ぶことになるため、なるべく早いタイミングで自己破産することを伝えるべきでしょう。
保証人がいるけど自己破産したいという方は、こちらの記事を参考にしてパターン別の対処方法を知りましょう。
自己破産すると連帯保証人はどうなる?借金の前と後&パターン別の対処法
官報に公告される
自己破産も裁判所に免責を申し立てる手続きのため、官報に公告されます。官報に載るタイミングは、自己破産の方法によって異なり、同時廃止では「破産手続開始決定」「免責許可決定」の2回です。管財事件では、2回にプラスして「破産手続廃止決定または終結決定」のタイミングで計3回、官報に載ります。
自己破産で官報に載る内容は、以下の通りです。
- 事件番号
- 破産者の住所
- 破産者の氏名
- 開始年月日時
- 主文・理由の主旨
- 免責意見申述期間
- 免責審尋期日
- 裁判所名
官報の掲載タイミングや載る内容、周囲にバレる可能性については、こちらの記事を参考にしてください。
自己破産すると載る官報について解説!掲載のタイミングや確認方法、バレる可能性とは
特定の資格や職業に制限がかかる
自己破産の手続き中(免責許可申立~免責許可決定確定)の4~6カ月間は、特定の資格や職業に制限がかかります。以下のような職業についている場合は、その仕事ができなくなります。
職業・資格の種類 | 詳細 |
---|---|
士業 | 弁護士・税理士・弁理士・司法書士・行政書士・公認会計士・土地家屋調査士・宅地建物取引士など |
公職 | 公証人・都道府県公安委員会・公正取引委員会・教育委員会など |
役員 | 商工会議所・証券会社・信用金庫・日本銀行など |
その他の職業 | 貸金業の登録者・生命保険募集人・質屋を営む者・警備員・旅行業取扱の登録者・建築業を営む者・風俗業管理者など |
自己破産の手続き期間中は、休職したり一時的にその仕事から離れなければならないため、勤め先に相談が必要になります。
公務員が自己破産するとクビになるのでは?と心配な方は、こちらの記事を参考にしてください。
公務員が自己破産するとクビになる?バレるケースとバレない対処法を解説
旅行や引っ越しに制限がかかる
自己破産の手続き中は、宿泊を伴う旅行や出張、引っ越しに制限がかかります。こちらは管財事件で手続きした場合のみの制限で、手続きが終わるまでは裁判所や破産管財人に居所を明らかにしておかなければならないため。とはいえ、ずっと家にいなければならないという訳でなく、事前に裁判所や破産管財人の許可を得られれば、引っ越しや旅行も可能です。
郵便物が転送される
管財事件で自己破産すると、破産手続きの開始から免責許可決定の期間は自宅に届くはずの郵便物が、破産管財人に転送されます。これは申告していない債権者や財産がないか破産管財人が調査するための手続きで、同時廃止の場合は転送されません。
転送の対象は破産者宛ての郵便物に限られ、同居家族の郵便物や宅急便、メール便などは普通に自宅に届きます。破産管財人に転送された郵便物は中身を確認された後で、ある程度たまったら破産者に返却されます。
破産管財人のつく自己破産で調査される内容や範囲、財産隠しのリスクについては、こちらの記事を参考にしましょう。
自己破産ではどこまで調べられる?破産管財人の調査内容と財産隠しのリスクを解説
免責が認められない可能性がある
自己破産を申し立てても、免責が認められない可能性があります。自己破産には免責が許可されない「免責不許可事由」が11項目あり、これに該当した場合は、免責が許可されないので借金はゼロになりません。よく知られているのがギャンブルや浪費でできた借金ですが、こちらは経緯や事情にかんがみて、反省の態度が認められれば「裁量免責」として免責が許可されます。
自己破産には他にも免責できない「非免責債権」というものがあります。非免責債権に該当するのは、次のような債権です。
- 税金・国民年金保険料・健康保険料
- 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(慰謝料)
- 故意または重大な過失により加えた生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
- 婚姻費用や養育費
- 滞納している罰金・過料・追徴金・刑事訴訟費用
このような債権は、たとえ自己破産しても支払い義務を免れることはできません。
自己破産ができない9のケースや対処方法については、こちらの記事を参考にしましょう。
自己破産ができない9つのケースとは?対処方法や自己破産に適さない人について解説
債務整理後に後悔しないためにできること
債務整理をした後で、「債務整理なんてするんじゃなかった…」と後悔しないためには、次に紹介するような対策を取りましょう。
信用情報を確認してから申し込む
事故情報が抹消されてからローンやクレジットカードの申し込みをする場合は、事故情報が消えているかを必ず確認してからにしましょう。勘違いなどで事故情報が登録されている状態で申し込みをしてしまうと、審査に落ちる可能性があり、その事実も事故情報として新たに登録されてしまうからです。
今度は約半年ほどで登録は抹消されますが、ローンが組めない期間がさらに長引いてしまいます。信用情報の確認方法は、信用情報機関によって次のように異なります。
信用情報機関名 | 開示方法 | 手数料(税込) |
---|---|---|
株式会社シー・アイ・シー(CIC) | 郵送・スマートフォン | 各1,000円 |
株式会社日本信用情報機構(JICC) | 窓口・郵送・インターネット | 窓口500円
他 1,000円 |
全国銀行個人情報センター(KSC) | 郵送 | 1,000円 |
3つの信用情報機関は、「CRIN(Credit Information Network)」や「FINE(Financial Information Network)」といった交流ネットワークで、相互の情報を共有しています。そのため、消費者金融からの借金のみを債務整理したとしても、3つの信用情報機関すべてに開示請求を行ってください。
デメリットを解消できる対策を立てる
債務整理すると様々なデメリットや生活への影響が出てきますが、事前にそれらを解消できるような対策を立てておくと、それほど不便を感じずに済むかもしれません。例えばクレジットカードが使えないときは、デビットカードやスマホ決済を利用するなど。一時的に現金が必要なときは、利息のかからない公的な貸付制度「緊急小口資金」を利用する方法がおすすめです。
ただし現金が欲しいからといえ、闇金からはお金を借りないようにしましょう。「ブラックでも貸付可」とうたっている業者は、違法な利息で貸付を行う闇金の可能性が大です。後から思わぬトラブルの原因になるため、絶対に闇金からはお金を借りないように気を付けてください。
自分に最も適した債務整理方法を選ぶ
債務整理には主に3つの方法があります。自分に最も適した債務整理方法を選ぶのが、後悔しないポイントです。例えばマイホームや車など、処分されたくない財産がある方は任意整理や個人再生がおすすめ。また家族や職場に債務整理のことを知られたくない方は、任意整理が最も適しているでしょう。
保証人に絶対迷惑をかけたくない場合は、整理対象を選べる任意整理を選択しましょう。借金の金額が大きかったり、働いて偏差できないような状況の方は自己破産が向いています。債務整理するにあたって、自分は何を優先したいのか考えれば、おのずと答えは出てくるはずです。
「特定調停」を含む、4種類の債務整理それぞれに向いている人については、こちらの記事を参考にしましょう。
債務整理の種類は4つ!メリット・デメリット・変わること・向いている人を解説
債務整理に詳しい弁護士に相談
もし自分に適した債務整理方法が分からない場合は、借金問題に詳しい弁護士に相談するのがおすすめ。収入の有無や借金の状況などから、あなたに最も適した方法をアドバイスしてくれるでしょう。そのまま弁護士に手続きを依頼できれば、面倒な書類の準備や裁判所とのやりとり、債権者との交渉を任せられます。
どうしても家族に知られたくない場合は、書類の送付方法や連絡の時間帯などを工夫してもらえる可能性も。債務整理を成功させるには法的な知識や経験、交渉力が求められます。その点、債務整理の実績が豊富な弁護士なら極力デメリットが少ない方法を提案してくれるでしょう。
債務整理を相談・依頼する弁護士の選び方については、こちらの記事を参考にしましょう。
【相談前・相談時】債務整理を依頼する弁護士の選び方を解説!失敗しない6つの注意点も紹介
まとめ
「任意整理」「個人再生」「自己破産」と3つある債務整理で、共通するデメリットや影響はブラックリストに登録されることです。返済中のローンの取り扱いや周囲への影響、整理後に返済できなくなったときの影響は、種類によって異なります。
任意整理では減額できない可能性や減額割合が低いのがデメリット。個人再生すると保証人に債務が移り、官報に公告されたりローン返済中の財産は没収されます、自己破産では一定以上の財産が没収され、職業・資格や旅行に制限がかかるほか、免責が認められない場合があります。
いずれの債務整理方法でも手続き後に後悔しないためには、自分に適した方法を選択し、デメリットを解消できる対策を立てること。新たにローンを組む場合は、必ず信用情報をチェックしてください。自分に合った債務整理が分からないときは、お近くの借金問題に詳しい弁護士に相談するのがベストです。